仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ

文字の大きさ
24 / 79
昔の事件

この人、常に本気ですよ

しおりを挟む
 
 持田は新田に送られ、持ち場に戻っていった。

 それを見送りながら、深鈴は晴比古たちに訊く。

「先生たちが来たときにはもう、その血塗れの仏像とやらはなかったんですか?」

「影も形もなかったな」

「なんで仏像なんでしょうね」
と幕田が呟く。

 その仏像は木製か? と晴比古は訊いた。

 定行のところの仏像が消えたことと関連があると思っているようだった。

 定行が過去の罪の贖罪のために拝んでいたという仏像がひとつ消え、このホテルで事件が起こった。

 やはり、なにか関連があるのだろうか?

「新田さん、あっちの階段から上がってきましたよね」
と幕田は持田の居た位置より、より仏像が現れた位置に近い階段を指差す。

「だが、新田さんは誰ともすれ違わなかったし、仏像も見なかったと言っている」
 そう晴比古は言った。

「なにかのトリックなんですかね?
 そこに血塗れの仏像が居るように見せかけたかったとか?」
と幕田が問う。

 だが、なんのために? と深鈴が思っていると、幕田が、
「あの人、動転しやすいから利用されたんですかね?

 持田さんって、近づいていって確認したりする前に、大騒ぎして、人を呼びそうな感じじゃないですか。

 あの人が騒ぎながら、怯えて目を閉じたり、ウロウロしてる間に、仏像を隠したとか」
と言ってきた。

 まあ、確かに持田のイメージはそんな感じだ。

 犯人に利用されたのかもしれない。

 そう思いながらも、いや、なんの犯人だ、と深鈴は思った。

 血塗れの仏像があそこに居たと思わせたい犯人?

 定行さんのところから仏像を奪った犯人?

 そんなことを考えていると、
「血塗れの仏像か」
と呟いた晴比古はこちらを見、

「今は、これ以上進展なさそうだから、戻っていちゃついてていいぞ」
と言ってきた。

 だが、志貴はそんな嫌味混じりの冷やかしにも動じることなく、晴比古に訊く。

「先生は、今の仏像の話と今朝の支配人失踪事件は関係あると思われますか?」

 さすがこういうときは、刑事らしいなと、深鈴は、ちょっとうっとり志貴の横顔を見てしまう。

 晴比古が、
「あるんじゃないか?
 今のこのタイミングだし。

 まあ、なんの意味があるのかは知らないが」
と言うと、

「そうですか」
と志貴は微笑む。

「僕、この犯人捕まえますよ」

 何故か、笑ったまま、志貴は、わざわざそんなことを宣言してくる。

「僕と深鈴の邪魔をするなんて。
 殺していいですよね?」

 やはり、キスの時間が短かったことを怒っているらしい。

「殺していいですよね?」
 志貴は笑顔のまま繰り返す。

 ……今、新田さんたちが居なくてよかった、と深鈴は思っていた。

 笑う志貴を見ながら、晴比古が小声で言ってくる。

「深鈴、志貴より早く犯人を捜せ」

 さもなくば、犯人は確実に殺される……と呟く晴比古に、志貴の恐ろしさがわかっていない幕田が、
「またまた~」
と言って笑う。

 いやいや、幕田さん。
 この人、やりますから。

 常に本気の人ですからっ、と突っ込みたかったのだが。

 志貴に悪い評判が立たないよう、そこは一応、……はは、と笑って誤魔化した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

処理中です...