仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ

文字の大きさ
23 / 79
昔の事件

事件ですか?

しおりを挟む
  
 一階下に下りると、晴比古、幕田、女性従業員と新田が廊下に居た。

「すぐ上に居たんだろ。
 遅いぞ、深鈴」
と晴比古に睨まれ、すみません、と深鈴は頭を下げる。

 だが、晴比古の目は志貴と繋がれた深鈴の手を見ていた。

「二人でなにしてた」

「それ、今、関係ないじゃないですか」

 深鈴はそう言ったが、晴比古は不機嫌に、
「いちゃついてて遅れたんだろ」
と言ってくる。

「はい」
とあっさり志貴が認めた。

 ええーっ。
 それ、言っちゃうっ? という顔で、元気になったらしい幕田がこちらを見ている。

「悲鳴が聞こえただろ。
 事件かもしれないのに」
と言う晴比古に、志貴が、しれっと言った。

「僕、今、休暇中なんで」

 事件かもしれない、ということは違ったのか。
 そういえば、なにもないな、と深鈴は辺りを見回す。

 あの女性従業員、確か持田とかいう、ちょっとふっくらとした可愛い顔の女が座り込んで怯えている以外は。

「いいから、手を離せ。
 繋いでていいのは、移送中の犯人だけだ」
と晴比古に言われ、ようやく手を繋いだままだったことを思い出し、深鈴は慌てて離した。

 っていうか、犯人は手じゃなくて、手錠で繋がれてるんだと思うが。

 まあ、志貴なら、私と手錠で繋いだままでも、平気で、
『どうしました?』
と晴比古に話しかけそうだけど、思いながら深鈴は今の状況を聞く。

 どうやら、晴比古が此処に来たとき、悲鳴を上げた持田が座り込んでいたようだ。

「出たんですっ!」
と彼らに一度訴えかけたらしい言葉を持田は繰り返す。

「そこの突き当たりに、血塗れの仏像がっ!」
 そう叫び、持田は廊下の突き当たりを指差した。

「……仏像?」
 深鈴が口の中で繰り返したとき、晴比古が彼女に訊いた。

「木製か?」

 ええっ? と持田が眉をひそめる。

「そんなことわかりません」

 そりゃそうだ。
 廊下は薄暗く、距離もある。

 動転もしていただろうし。

 どうも動転しやすい人らしいからな、と朝、支配人は殺されたのかと騒いでいた持田を思い出しながら、深鈴は思う。

「あ……、でもそうだ。
 そうですね。
 それっぽい色だったかも」

 思い出すような顔をしながら、そう言う持田に、そうか、と言いながら、晴比古は手を差し出した。

 え? とまだ座り込んでいた持田は、晴比古を見上げ、赤くなる。

「あっ。
 だ、大丈夫ですっ」

 持田はそう照れたように言うと、自分で立ち上がり、スカートをはたいた。

「……使えない男前ですね」

 晴比古の側でぼそりと言うと、うるせー、と言われた。

 晴比古がこれほどの男前でなかったら、持田は照れずに手を取っていたかもしれないのに。

 晴比古は手を貸すだけではなく、彼女の手を握り、後ろ暗いところがないか探ろうとしたのだろう。

 その手に潜む仏眼のチカラで――。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

処理中です...