仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ

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仏像は祟らない

逆幽霊タクシー

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「なんで仏像盗ったんだ?」
と晴比古は訊いた。

 菜切はちょっと困った顔をしたあとで、
「いやー、それがたぶん、酔った弾みでちょっと。
 ほら、フライドチキンのお店の人を連れて帰るみたいに」
と言う。

「でも実はよく覚えてないんですよね。
 夜中に目が覚めたら、枕許にあったんですよ」

「そ、それは怖いですね」
と幕田が言う。

「そうなんですよ。
 目が合っちゃって。

 怖くなって、捨てに行ったんです」

「夜中に抱えて?」
と志貴が訊いた。

 その方が怖そうだと思ったのだろう。

「だって嫌じゃないですか。
 部屋の中に見知らぬ仏像があるなんて。

 それで、ゴミ置き場に思わず、持ってっちゃったんですけど。
 よく考えたら、ゴミの日じゃなかったんですよね」

 いや、そういう問題ではない、と晴比古は思ったが、菜切は渋い顔をして言う。

「でも、部屋から出して安心したせいか、結局、昼過ぎまで寝ちゃって。

 起きて、あっ、ゴミの日じゃなかったと思って見に行ったら、もうなくなってたんですよ。

 中国雑技団とかが持ってっちゃったんですかね?」

「……窃盗団だろ」

 何処まで本気だ、菜切……。

「でも、先生が仏像探しに来たって聞いて、焦ったんですよ。
 仏像、何処に行っちゃったのか、もう僕にもわからないし」

「ところで、お前の家は、定行じいさんちの近くなのか?」
と問うと、いいえ、と菜切は言う。

「じゃあ、どうやって、仏像持って帰ったんだ」

「それが記憶がないんですけど。
 タクシーに乗った気がするんですよね」

「仏像持ってか?」

 そうなんです、と言う菜切に、
「お前、仏像持って乗ってることについて、運転手に、なにも言われなかったのか?」
と訊くと、うーん、と唸ったあとで、

「そこも、記憶にないんですけど。

 まあ、僕でもなにも言わないですね。
 仏像と並んで乗っているような客には」

 怖いじゃないですか、と菜切は言った。

「タクシー業界で噂になってなかったか。
 仏像持って乗った奴が居たって。

 っていうか、タクシーの運転手ならお前の顔、知ってるだろう」

 こんな田舎にタクシー、そうないと思うのだが。

「そうなんですけど。
 誰もなにも言ってなかったんですよ。

 そんなことあったら言いそうなもんですけどね」

「逆幽霊タクシーだったとか?」
と深鈴が言う。

 タクシーの方が幽霊だったのではと言いたいのだろう。

「怖いこと言わないでくださいよ~」
と菜切は怯えてみせる。

「まあ、可能性としてはですね。
 よそのエリアのタクシーが客を送ってって帰る途中だったのを僕が止めちゃったとかですかね」

 まあ、それなら、この辺りで噂にならないのもわかるか、と晴比古は思った。

「営業区域外でも、あまりにも哀れっぽかったら、人情として乗せてしまうときありますもんね」

 仏像持って、へべれけな男。

 哀れっぽいだろうか……。

「菜切さん」
と深鈴が呼びかけた。

「どうして、その仏像を盗むことにしたんですか?」
「えっ?」

「あそこ、仏像たくさんありましたよね。
 何故、あの木製の仏像にしたんですか?」

 菜切は一瞬、つまったあとで、
「……軽そうだったからですかね?」
と言う。

「その辺の記憶、曖昧なんで、よくわからないんですけど」

「そうですか。
 それから……」
と深鈴がちらとこちらを見る。

 訊きたいことがあるのだが、大丈夫だろうかという顔だった。

 頷くと、
「晴比古先生が手を握ると、犯罪を犯しているかどうかわかるって話、持田さんにしました?」
と訊いた。

「あ……はい。
 たぶん。

 したかも」

「したかも?」
と問うと、いやあ、と菜切は頭を掻き、

「紗江さんの前に出ると緊張するので、なに話したかあんまり覚えてないんです、いつも」
と言う。

「そうか。
 菜切」
と晴比古は手招きをした。

 はい? と菜切がこちらに近寄る。

 おもむろに晴比古が手を握ろうとすると、菜切は逃げかかる。

 だが、その手を無理やりつかんで振った。

 いや、振ることに意味はないのだが、なんとなく、その方が深く相手の中を探れそうな気がするからだ。

 表情も読める。

「よし」

「え、よし?」
と菜切が少しほっとした顔をした。

「よし、真っ黒だ」
と言ってやると、ええええーっ、と叫んでいた。


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