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歩く仏像
仕事は? 仕事は大丈夫っ?
しおりを挟む菜切を追っていく晴比古を見送りながら、深鈴は呟く。
「先生、上手く菜切さんから訊き出せるかしら?」
返事がないので、振り向くと、志貴は機嫌悪く、晴比古が消えた方を見ていた。
「どうしたの? 志貴」
「いや、なんか面白くないだけ。
亮灯が、先生にばっかり期待して、先生ばっかり見てるように見えるから」
と言ってくる。
……子供か、と思いながら、深鈴は、なだめるように言った。
「そんなことないわ。
もちろん、志貴のことも信頼してるわよ。
此処まで来てくれて、嬉しかったし」
と言いながら、実は気になっていた。
いいの? 志貴、まだ此処に居ても。
仕事は?
仕事は大丈夫っ? と思っていたのだが、今言うと、更に拗ねそうだと思って黙っていた。
「亮灯……」
と志貴は、深鈴の手におのれの手を重ね、深鈴を見つめていたのだが、スマホが鳴る。
視線を逸らさないまま、携帯を手に取った。
「はい」
と志貴が出ると、騒がしい声が深鈴の許まで聞こえてくる。
どうやら、中本刑事のようだった。
『まだ帰れないってどういうことだ、志貴っ』
……やっぱりな、と思っていた。
警察官が県外に出るのには許可が居る。
志貴は今日ぐらいまでしか申請していなかったはずなのだが。
「事件です、中本さん。
まだ帰れません」
『それ、他所の管轄の事件だろうがーっ!』
ごもっともです、中本刑事……。
「中本さん、他所の事件だから、見過ごしていいとか、そういうのはないと思います」
正論なようだけど、違うよ……、と深鈴は漏れ聞こえてくる二人の会話に突っ込む。
「それに、此処には、もっと大きな事件があるんです」
『なんだ?』
「深鈴……亮灯が、晴比古先生に、気があるようなんですっ」
ないからっ、と深鈴が思うより早く、中本が叫んでくる。
『あの男前の先生かっ?
それはまずいぞっ』
なんで、貴方まで、志貴と同じテンションになるんですか、中本さん……と思いながら聞いていた。
『まあ、今は珍しく忙しくないからな。
だが、いつなにが起こるかわからないから、早く戻れ。
こんなときに、書類も片付けておいた方がいいし』
「わかってます。
落ち着いたら、戻ります」
なにが落ち着いたら?
『頑張れよ、志貴っ』
だから、なにを?
と突っ込んでいる間に、話は終わり、スマホを置いた志貴が手を握ってくる。
「というわけで、明日まで僕も居るから。
明日の午前中までに、全部の事件を解決しようねっ」
「……わ、わかった。
わかったから、志貴」
は、恥ずかしいんだけど、こんなところで手とか握られるとっ、と思いながらも、なにやら必死な志貴も可愛らしく、振りほどくことは出来なかった。
ま、何故、志貴の都合で、事件解決のリミットが決まるんだ、と思いはしたが……。
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