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妖怪、祇園精舎
なんなんだ、こいつらは
しおりを挟むそんなことを考えている間に、肌に触れる空気がやけにひんやりし始めた。
先程までの夜風の冷たさとはまた違う感じだ。
イヤホンのせいで、外の音はなにも聞こえてこないので、目を閉じ、気配で感じようとする。
何処だ? この冷たく湿気を含んだ空気。
二人が頭の上でなにか話しているようだった。
「……い」
「せ……い……」
そのうち、菜切が叫ぶ声が聞こえてきた。
「なんで返事してくれないんですかっ。
先生ーっ」
「お前らが爆音流してるからだーっ」
と晴比古は叫んだ。
もう、なんなんだ、こいつらは、と思っているうちに、晴比古は下に降ろされた。
仕方なしにだろうが、イヤホンの音も消してもらえた。
「先生、動かないでくださいよ」
と菜切が言うので、
「銃でも持ってんのか?」
と訊くと、いいえ、と言う。
「じゃあ、ナイフ」
「危ないじゃないですか、こんなところでそんなもの持ってたら。
すっ転んだら刺さるでしょう?」
いや、まあ、そうなんだが。
「じゃあ、お前は、凶器もなしに動くなと俺を脅してるのか?」
と訊くと、菜切は、
「いえ、ですから、お願いしてるんです」
と大真面目に言ってくる。
お願いして聞くと思ってんのか、人がいいな。
いや、まあ、聞いてやるけど。
って、これ、単に俺の性格を読まれてるだけかもしれないな……。
まあ、深鈴ならともかく、この二人だから、そこまで考えてはいなさそうだが。
現に今も、幾つも愚行を犯している。
話が出来ないので、イヤホンの音を止めたが、おかげで彼らが心配していたように、周囲の音が聞こえるようになっていた。
菜切や自分の声が反響しているがわかるし、なにかが滴る音も聞こえてきている。
それに、降ろされて感じた靴底の感触。
あまり動かなくとも、下が水気を含んだ岩盤で、靴底によっては、滑りそうな状態なのもわかる。
菜切も今、こんなところでナイフなんぞ持っていたら、すっ転んで刺さると言っていたので間違いないだろう。
そして、足許が特にひんやりしている。
冷気が流れている感じがあった。
あの林からお姫様抱っこで歩いたことといい、林から更に人気のない山に向かい歩いたことは明白だった。
そんなことして、宿方面か道に向かえば、誰かが騒ぐに決まっているからだ。
此処が何処だかはすぐにわかったのだが、とりあえず、黙っていた。
すると、菜切が言い出す。
「先生、その紙袋を被ったまま、こっちに来てください」
と菜切は自ら手を掴んできた。
もう二度も掴んでいるので、別にいいようだった。
滑らないよう警戒しながら、少し歩くと菜切が止まる。
「先生、お願いがあります」
そう菜切は真摯に訴えてきた。
「この人の手を握ってみてください」
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