仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ

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妖怪、祇園精舎

何処行ってたんですか、先生

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「それで、何処行ってたんですか、先生」

 部屋に入るなり、深鈴が訊いてきた。

「頭から紙袋を被らされ、俊哉にお姫様抱っこされて、鍾乳洞の妖怪 祇園精舎に会って、手を握ってきた」

「……西島さんに、お姫様抱っこされてたんですか。
 それは、水村さんや持田さんたちが食いつきそうですね」

 そう言う深鈴に、お前こそ、何処に食いついてんだ、と思った。

「あそこが鍾乳洞だと知られたくなかったんだろ。
 俺になにも見せず、聞かせず、歩かせずで済ませたかったようなんだが。

 結局、途中で諦めたようだ」

 あの独特の湿った冷たい空気とか。
 足許の濡れて滑る岩盤とか。

 その辺のちょっとした穴ならともかく、鍾乳洞だ。

 そこが何処であるのか、隠すことは難しい。

「……手を握って、どうでした?」
と志貴が訊いてきた。

「黒というほどではない茶色がかった淀みを感じたよ。
 菜切たちにも言ったが、本人がそれを罪だと思ってなければ、濃い闇を感じないこともあるから、なんとも言えないんだがな」

「祇園精舎の正体は、生きた人間なんですね」

「だが、かなり体温が下がっているようだ。
 あのまま、あそこに居るのは危険だろう」

「先生、生きた人間がずっと結跏趺坐の形でじっとしてるんですか?」
 そう深鈴が確認してくる。

「なにか薬でも打たれてるのか。
 そもそもなにかで意識不明なのをそういう形にしてるのか」

「放っといて大丈夫なんですか?」
と志貴が訊いてきた。

「……わからないな。
 菜切ももうバレないでいることは、諦めているようではあったから、行ってみてもいいかなと思ってるんだが、鍾乳洞。

 というか、菜切自身、祇園精舎の命の危険を感じたから、ずっと俺たちの前をウロウロしてたんだろ」

「ってことは、菜切さんは首謀者じゃないわけですよね。
 彼には決定権がない感じがしますから。

 じゃあ、妖怪 祇園精舎をあそこに閉じ込め、菜切さんに協力させてるのは……持田さんってことですか」

 そう深鈴は結論づけて言う。

「……まあ、そうなるかな」

 菜切は鍾乳洞に居る人物の身を案じているようなのに、自分では動けないでいる。

 菜切がそこまで気を遣う相手と言えば、自分たちの知る限りでは、持田しか居ないだろう。

「あいつ、女に弱そうだしな」

 そのとき、誰かがドアをノックしたと思ったら、幕田だった。

「ただいま、戻りました」

 はい、差し入れです、とアイスを持ってくる。

「どうした、幕田。
 気が利くじゃないか」
と言うと、

「いや、おばあちゃんが持ってけって」
と言う。

 問題のハルさんか、と思ったが、今は言わなかった。

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