仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ

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疾走する幽霊

まさか先生がっ

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 そのとき、あの『歩く仏像』が消えた通りに立ち、そこから続くという廃村を見上げていた大上の姿を思い出していた。

「……もしかして、その人は」
と晴比古が言いかけたとき、後ろから深鈴が、

「なにかの殺人事件に関係している人ではないですか?」
と言う。

 い……今っ!

 思わず、振り返ると、深鈴が目を合わせ、ああ、という顔をする。

「すみません。
 もしかして、今、珍しく先生、推理を披露しようとされてました?」

「いいよ、もう……」

「いえいえ。
 どうぞ、どうぞ」
と深鈴は譲ってくれようとする。

「まあ、うちは、推理するのはお前の仕事だからな」
と渋い顔で言うと、幕田が、

「……どんな事務所ですか」
と言っていたが。

「先生。
 私、先生の推理、ぜひ、お聞きしたいです」

 そう深鈴が言ってくる。

 ……気を使われてしまった。

 いや、別にもうどっちでもいいんだが、と晴比古が思っていると、
「いいじゃないですか、先生。
 たまには僕も先生の推理、聞きたいです」
と志貴が言ってくる。

 これは、盛り上げてくれようとしているのか、揚げ足を取ろうとしているのか、よくわからない。

 っていうか、お前に言われたら、緊張するわっ、と思いながら、晴比古は仕方なく口を開いた。

「ハルさんが言ってたな。
 この村で殺人事件とか、もう充分だと。

 ところが、誰に聞いても、この村で殺人事件なんてなかったと言う」

「いや、わかりませんよ……」
とまるで怪談でも始めそうな口調で幕田が言い出した。

「田舎なので、恐ろしい因習があって、それに、よそ者が関わって殺されたので、伏せられているとか」

 いや、お前もこの村の関係者だろうが……と思っている横で、和田と志貴が、ないない、と手を振る。

「無理ですよ。
 昔の推理小説じゃないんですから。

 いまどき、そんな田舎ないですよ」
と志貴が言い、和田が、

「いや、昔でもそんなこと無理だと思いますけどね」
と付け加えていた。

 現実には、村の秘密だからって、誰も喋らない、なんてこと、不可能だ。

 これは、此処だけの話、と言いながら、広まっていくに違いない。

「村全体で隠すとか無理だし、誰かが隠すも難しいよな」
と晴比古が呟くと、

 俊哉が、
「田舎は近所でなにが起こったか、筒抜けっすからね。

 ミキちゃんが学校帰りに、駅の近くで転んだら、家帰ったとき、お袋さんがそれ、知ってたらしいっすよ」
と言う。

 田舎の噂話、電車より速いのか……。

 ……ていうか、脱線したな、と思いながら、話を戻す。

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