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終章 仏像の還る場所
ナビ、怖いですよね
しおりを挟む「思うんだが、持田はなにかの弾みで、藤堂とのことやなにかを知られ、古田に脅されていたんじゃないかな?」
タクシーの中で晴比古は言った。
結局、駅までパトカーで運んでもらい、乗り捨てられていた菜切のタクシーで持田を追いかけていくことになった。
小田切の喫茶店に向かう間、晴比古たちの話を聞きながら、菜切は無言だった。
「でも、脅されるようなことなんて。
持田さんは、ただ、藤堂さんを追いかけてきただけでしょう?」
と幕田が言う。
「例えば、藤堂があの廃村に潜んでいたことは、一部の人しか知らないことだが、それを広めると脅したとか。
それか、持田があの仏像を持って逃げたのを知って脅したとか。
或いは、持って逃げるのに協力したのかもしれない。
宿のおばちゃんが持田と支配人はなにかあると言ってたけど。
持田は藤堂が好きだったんだろ?
だったら、古田は持田を脅して、関係を強要してたんじゃないのか?」
「悪い奴ですね、古田支配人って。
殺しちゃっていいんじゃないですか?」
おい、警察、と幕田の言葉に思う。
悪い奴か、と晴比古は呟き、言った。
「定行じいさんのところにあった仏像をまた移動したのは、古田なんじゃないかな?」
「何故です?」
「持田は藤堂が殺されないよう、仏像を持って逃げた。
だが、古田にとっては、まだ持田が思いを残している藤堂が邪魔だった。
だから、小田切さんに殺させるために、あの仏像群から仏像を持って逃げて、元に戻そうとしてた。
それが持田にバレて、ガツンと」
鏡越しにチラと見えた菜切は口許をきつく結んでいた。
「まあ、要するに、自らの手を汚さずに恋敵を葬ろうとしたんじゃないか?
いい手だよな」
と言うと、横の志貴が、
「……へえ」
と冷ややかにこちらを見て言う。
いや、俺が常日頃から、恋敵を始末したいと思ってるわけじゃないぞ、と弁明したくなった。
「菜切~、まだか?」
と話を誤魔化すように言う。
「ナビに寄ると、その先なんですが」
「ナビですか」
と幕田が呟く。
「大丈夫ですか?
ナビの言う通りに進んで。
崖から落ちそうになって、ナビが、
『あとちょっとだったのに……』とか言いませんか?」
お前は妙な番組の見過ぎだ……。
崖ねえだろ、と思っていると、
「でも、ナビ信じてとんでもないとこに行くときありますよ」
と志貴が言ってくる。
「更新されてなくて、ナビで見ると、海の中走ってるときもありますしね」
そんなしょうもない話をしていたら、菜切が、あっ、と声を上げた。
「古田支配人ですっ」
「あっ、さっきの服の人ですっ」
と幕田も前方を指差す。
古田に弾き飛ばされた幕田は、今の彼の服装をよく記憶しているようだ。
「あそこ、小田切さんの店ですよ」
と言い、菜切は急いだが、もう古田は開いていた入り口から入っていってしまったようだった。
「私が殺してさしあげますよ。
貴女が先程話してらっしゃった『その男』」
そう小田切は持田に言ってきた。
先程、小田切が告白を始める前に、持田は古田に脅されていた話をしていたのだ。
俯き黙る持田を窺うように小田切は見ている。
せっかく淹れてもらった珈琲が冷め始めていた。
「私は――」
と言いかけたとき、ドアベルを跳ね上げるくらいの勢いで喫茶店のドアが開いた。
古田が飛び込んでくる。
はっ、と持田は立ち上がった。
「紗江っ。
大丈夫かっ!?」
息を切らして駆け込んできた古田は、藤堂の服を着ていた。
若い藤堂の服は似合っておらず、サイズも小さいようだった。
だから、急いで服を着て駆けつけた感じがして、余計に慌てふためいて来たように見えてしまう。
「なんで、大丈夫かなんて……」
そう呟き、紗江はもう一度、スツールに腰を落とした。
そのまま顔を覆う。
指と指の隙間を温かいものが伝い落ちていき、どうやら自分は泣いているようだと気づく。
カランコロンと今度は柔らかい音がして、顔を上げると、阿伽陀晴比古たちと、そして、菜切が立っていた。
菜切は少し寂しそうにこちらを見ていた。
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