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悪徳公主を観察する離宮の人々
侍女、天天の証言 その5
しおりを挟む蓮の葉の広がる湖面には離宮の姿が映っていて風情がある。
今日も皇帝陛下と宰相様と秀悦様が白鷺亭に来ていた。
皇帝陛下が皇后様に言う。
「少しはまともな茶を淹れろ」
「そうですね。では今日は混ぜ合わせずに単品で」
効果は急激には出ないですが、と言いながら、皇后様はお茶の支度をされた。
我々もそれを手伝う。
「急激に調子が悪くならないのなら、その方がいい」
と言う陛下に皇后様は玻璃の瓶に入った茶色く細長い種のようなものを見せる。
「これは私が持ってきたアニスシードというハーブなんですけど。
胃もたれに効きます」
ほう、と陛下の顔が少し明るくなった。
昨夜も宴会だったと言っていたので、胃が重いのだろう。
「食後にこの種子を噛むだけでもスッキリしますよ。
私の家庭教師……
師匠の国では違うことに使っていたようですが」
「ほう。なにに使うのだ?」
「ミイラを作るらしいです」
「……ミイラ」
皇后様から手のひらにそれらの種子を載せられた男性陣が固まる。
「そうです。
人を乾燥させ、干からびさせるときにこれを――」
「説明せよと言っているのではない」
ミイラならこの国にもある、と陛下は言う。
即身仏のことだろうか……。
「これを飲んだら、私もミイラにならないかっ?」
と言う陛下に皇后様は、
「そんな便利なものありませんよ」
と呆れたように言った。
「便利?」
「ミイラ作るの大変なんですから」
いや、そういう問題か、という顔をする陛下に、皇后様は私を手で示して言った。
「ところで、陛下。
天天を女官にしたいのですが、よろしいでしょうか?。
翠玉様がいらっしゃらないので、白英様も大変なようですし」
自ら話題に出してきたーっ!
という顔を全員がしていた。
この離宮から突然消えた翠玉様の話題には、みな触れないようにしているのに。
皇后様はまったく気にせず、こちらを向き、訊いてきた。
「天天、女官になるにあたり、名を変えますか?」
「……いいえ」
と私は首を振り、頭を下げる。
翠玉様がどうして消えてしまったのかわからないが。
翠玉様、白英様と、ただの女官なのに、教えを乞うからと様づけして呼ぶこの方にとりあえずはついて行こうかなと今は思っている。
「陛下」
おっかなびっくりアニスシードを手のひらに載せていた陛下が顔を上げて皇后様を見た。
「ついでに天天のご家族にですね。
離宮の物を置いている国境付近にある蔵の管理を任せたいのですが。
天天のお父上は今は困窮しているとは言え、先帝とともに学ばれた博学なお方。
あちらにも私が運び込んだ書物がたくさんありますし。
それなりの知識がある方に管理分類していただきたいのです。
天天の弟さんも身体が弱いようですし。
側にある屋敷に住み込んでもらって――」
「そうだな。
……天天もその方がここの仕事に集中できるようになるだろう」
皇帝陛下が私を意味ありげに見て言う。
もしやバレているのだろうか?
私が家族への援助と弟を医者に見せることを条件に皇后様に毒を盛るよう、真珠妃様に頼まれていたことを。
そのとき、そっと誰かが後ろから両肩に手を置いた。
ひんやりとした手に、ひっ、となる。
振り返ると、あの夜のように皇后様の儚げでお美しい顔がすぐそこにあった。
「ありがとう。
天天、いつもよく働いてくれて。
私たち……
ずっと一緒よね」
くらくらするような良い香りが鼻先でする。
「は、はいっ!」
と答えながら、ゾワッとしていた。
永遠にこの麗しい皇后様のもとから逃げられないような……。
「ほら、お茶淹れるの手伝ってちょうだい、天天」
「はいっ」
まあ、とりあえず、今は逃げたくないかな、と思いながら、急いで皇后様のお手伝いをする。
男性陣がまだおっかなびっくり茶色い種を手にのせたまま固まっているのを見て、皇后様と二人笑った――。
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