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悪徳公主を観察する離宮の人々
宰相、元泉の独り言 その4
しおりを挟む宮殿に戻ると、貴族の者どもがひそひそ噂話をしていた。
「真珠妃の怒りを買わぬよう、皇后様を離宮に追いやったのに、陛下は一日に二度も離宮に渡られたらしい」
「一日二度もっ。
さすがお若いですなあ」
……いや、陛下は、こき使われていただけだが。
あと、二度も行ったのは私だが、と思っていたが。
あらぬ疑いをかけられても困るので黙っていた。
「胡椒ですか」
胡椒が欲しいと我々が言うと、皇后はちょっと眉をひそめていた。
「すみません。
胡椒はわざわざ持って来ずともあるだろうと思い、そんなに持ってきてはいないのです」
その言葉に陛下は落胆する。
それを見かねてか、皇后が言った。
「あの、どんなお料理に使うのかわかりませんが。
胡椒っぽい香りがすればいいと言うのなら、似た植物がここにはございますよ」
皇后はたくさん棚に並んだ玻璃の瓶のひとつを持ってくる。
中身は全部似た感じに茶色かったり、緑だったりする乾燥した植物なのに、よく、すっと見つけられるものだなと感心する。
「これはチェストベリー、チェストツリーとも呼ばれますが。
その実です」
皇后はまん丸で茶色い実を手のひらに載せて見せる。
「胡椒の代用品として使われたりもします」
でも、と皇后は小首を傾げながら言った。
「似た香りのするものでよければ、この島にもありますよ」
「そうなのか?」
と陛下が問う。
「この島、何故か暖かいからですかね?
この辺りにはないような植物があるんですよ」
何処かに温泉でも湧いているのでしょうか、と皇后は呟く。
そもそも、この国自体がかなり暖かい。
暑いほどではないが、大国よりはずいぶん暖かい。
なので、大国と周回遅れで似た装束を着てはいるが、まったく同じようにはいかないのだった。
首周りを毛皮でもふもふさせるなど、この国では論外だ。
皇后は庭先にあるショウガのような葉の植物を見、
「あれはパラダイスグレイン、グレイン・オブ・パラダイスという植物なんですが。
胡椒とよく似た香りがします。
胡椒ほどの抗菌作用や防腐作用があるかはわからないですけど。
故国の辺りでは、胡椒が手に入らないときの代用品として使われていました」
と教えてくれる。
「この庭にはいろんな物が生えているんだな」
知らなかった、と陛下は言う。
知らなかったと素直に言えるところが、この皇帝陛下のすごいところだな、と思っていた。
そして、私も知らなかった。
こんなに多種多様な植物がこの島に生えているなどと。
まあ、皇后がここに住むまで、この打ち捨てられた離宮には誰も近寄らなかったので、知らなくて当たり前なのだが。
「ここ、渡り鳥の通り道なんですかね? いろんな種が落ちて芽吹いているんですよ。
いいところに軟禁してくださいました」
そう皇后に微笑まれ、陛下は慌てて、
「軟禁しているわけではないぞっ」
と言っていたが。
いや、軟禁以外の何物でもないだろう。
「そもそも、そなたは、ここから抜け出そうと思ったら、自分で船でも橋でも造りそうだから、軟禁にもなっていないであろうがっ」
と陛下が文句をつけていたのだけは、まあ、その通りかな、と思った。
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