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悪徳公主を観察する離宮の人々
侍女見習い、明花の日記 その1
しおりを挟む明花ですっ。
皇后様にお仕えしていますっ。
前は皇帝陛下の宮殿にいましたが、今はそこよりちょっと暖かい離れ小島にいます。
皇后様の離宮です。
用事で天天様について宮殿に行くと、みんなには、
「明花、あんなところにやられて可哀想。
お菓子あげるわ」
とか言われたり。
「翠玉様たちに可愛がられて調子に乗ってるからよ。
あら?
その翠玉様も皇后様に消されたんだったかしら。
あなたも消されないように気をつけるのねっ。
お菓子をあげるわっ」
とか言われたりするのですが。
意外とここは楽しいです。
見たこともないお菓子を作って、皇后様が振るまってくださったりするからです。
ちなみに、今日のお菓子は「つまらないもの」らしいです。
羽衣のようなお衣装の皇后様がつまらないものを作っていらっしゃるのをお菓子の材料が載った台にぶら下がり、足をバタバタしながら見ていて、天天様に怒られました。
天天様は最近、翠玉様に似てきて、やさしいけど、ビシバシ叱ってきます。
そして、白英様と天天様は阿吽の呼吸で皇后様のお手伝いをしています。
たくさんの島で採れた果物とお酒を染み込ませたふわふわのお菓子と真っ白なクリーム? を玻璃の器に重ねているようです。
色鮮やかでとても綺麗です。
「昔は船乗りたちが長期保存している固いビスケットにお酒を染み込ませて作ってたらしいわ」
そんなお菓子の由来を皇后様が教えてくださいます。
「こんなに綺麗なお菓子なのに、なんで、つまらないものなんですか?」
と訊くと、
「そうねえ。
その辺にある、ありあわせの物でもできるからじゃないかしら」
と。
いえいえ。
皇后様のお国ではありあわせのその辺の物かもしれませんが。
この国ではそうではありません。
白英様は、クリームを混ぜている皇后様を見ながら、またこんな贅沢に砂糖を使って、という顔をされてましたが、美味しそうなので、声に出しては言われませんでした。
「はい。
できたわ。
みんなで食べましょう?」
と皇后様が微笑まれます。
透明な器の中には、庭になっていた橙色の実と森にあった野苺も可愛らしく飾られています。
そこに、宮殿の侍女が断りもなくやってきました。
「皇后様」
と呼びかけたあとで、机の上に並んでいる赤と橙色と白の層になっているお菓子を見て、息を呑みます。
「あら、あなたも食べる?」
と言う皇后様に、
「あっ、ありがとうございますっ」
と侍女の人は畏まります。
「陛下や宰相様たちがいらっしゃるかもと思って、多めに作ってたから、どうぞ」
そんな皇后様のお言葉に、宮殿の侍女は、ひっ、とお菓子を受け取りかけた手を引っ込めました。
陛下のお菓子を代わりにもらうだなんて、恐れ多いと思ったのでしょう。
白英様が笑い、
「お食べなさい。
皇后様はお菓子が無駄になる方が嫌な方だから」
と彼女に言います。
では……とその侍女は遠慮しながら、一緒に食べていました。
時折、鋭い視線がこちらに向かって飛んできていたので。
おそらく、
たいして仕事もしないくせに、こんな美味しいもの食べて~っと思われているのでしょう。
宮殿でもよくそういうことがありました。
「湯兒」
と白英様が彼女の名を呼びました。
そうそう。
この人、湯兒って人でしたね。
「そういえば、なんの用事だったの?」
「あ、はい。
すみません。
実は先日の酒宴での香りのする蝋燭の話を秦明国の公主様が聞かれまして。
ぜひ、拝見したいと」
秦明国はこの辺りでは一番の大国です。
「それで、皇后様に離宮でもてなしていただきたいと将軍が――」
陛下ではなく、真珠妃様のお父上、将軍、景雲様からの依頼のようです。
景雲様は顔が広いので、秦明国の公主様からの言伝を商人か誰かから聞いたのかもしれません。
皇后様にお願いするのですから、さすがに陛下の許可は得ているとは思いますが。
「秦明国の姫なのに、宮殿でもてなさくていいのかしら?」
と皇后様が首を傾げます。
「私的な訪問ですし。
他民族を母に持つ、第十三公主様だからいいそうです」
公主様なのに扱い悪いなあ、と思いますが。
後宮が大きくない我が国とは違い、向こうはたくさんの妃や側室たちがいて、公主様も大勢いるらしいので。
あちらの皇帝陛下の覚えがめでたくない公主様は大事にもてなさくていいということなのでしょう。
「そう。
わかったわ。
伝えてくれてありがとう。
湯兒」
そんな皇后様のお言葉に、湯兒は感激したように目を見開きます。
「わたくしなぞのお名前を呼んでくださるなんてっ。
ありがとうございますっ」
この世の者とも思えぬ皇后陛下に名前を呼ばれ、湯兒は舞い上がっているようです。
……湯兒さん、確か、宮殿にいるときは、真珠妃と一緒になって、皇后様を罵ってましたけどね。
でもまあ、わかります。
どんなに皇后様を蔑んでいる人でも。
実際に皇后様を前にすると、みな皇后様の発している神秘的な空気に呑まれ、萎縮したり、感激したりしてしまうのです。
「く、詳しいお話はまた決まり次第、誰かが伝えに来ると……
いえっ。
わたくしが参りますっ」
湯兒はそう宣言し、天天様たちと一緒に後片付けをして帰っていった。
それにしても、この離宮で大国の公主様をおもてなしするなんてっ。
これから忙しくなりそうですっ!
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