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むしろ、運命だろう
ニセ餃子
しおりを挟む会計を済ませたあと、外に出ながら、話しをした。
「えっ?
ニセ餃子知らないんですか?」
「当然のように言うな」
と高秀に言われ、
「おかしいな、私の友だちの間では通じるのに……」
と砂月はひとり呟く。
「じゃあ、ニセ餃子の意味がわかったら、僕と砂月さんはお友達ですね」
と笑う宮澤に、何故か高秀が、
「……友達になりたいのか?」
と訊いていた。
「いいえ」
そう真顔できっぱりと宮澤は言う。
「……私、宮澤さんに嫌われてるんですかね?」
一応、笑顔で去りゆく二人に手を振りながら、ぼそりと砂月はそう言った。
横で振るでもなく、ニーハオ、という感じに手を上げている高秀は――
いや、ほんとうに中国の人が手を上げて、ニーハオと言うのかは知らないのだが、
「そういうわけじゃないだろう」
と言う。
じゃあ、どういうわけなんだ、と思っていると、高秀は二人の姿が通りに消えるのを待って、
「ちょっと足らなくないか?」
と訊いてきた。
「酒ですか?」
と言って、
「……いや、食べ物の方だったんだが」
と言われてしまう。
すごい飲ん兵衛だと思われたかな……。
はは、と砂月が笑うと、
「ニセ餃子でも買いに行くか」
と言われる。
二人でスーパーに行き、ニセ餃子を買いに行く。
スーパーによくある、すごく安いパックの冷蔵餃子だ。
「いや、ホンモノの餃子だろ」
と言われるが、
「うちの近所の飲み屋さんが、すっごい皮がもっちりでニンニクたっぷりの餃子を売ってて。
私、餃子といえば、それだったんで。
スーパーのこれをニセ餃子と呼んでたんです。
そしたら、それが大学で広まりまして」
と説明する。
「迷惑だなあ、スーパー的に」
「いやいやまあ、意外といけるって話なんで」
餃子と言えば、ビールだという話になり、ビールも買い込む。
「そういえば、宮澤さんも嘉子先生も面白いひとですよね」
「そうだな」
「嘉子先生、意外に胃袋を直接つかむ話気に入ってるみたいで。
いっそ、『胃袋の嘉子』って名乗ったらどうですかって言ったら。
嫌よ、そんな通り名って言ってたんですけど。
面白いですよね、嘉子先生。
最初は高飛車っぽい綺麗な人だなと思ってたんですけど」
「その印象、なんか変わったか?」
「いいえ。
でも、嘉子先生、なんかいいです。
私、あのリバーサイドヒルズに越してきたのは、嘉子先生と出会う運命だったのかなって思いました」
「……俺との運命、何処行った」
「えっ?
ああ、相席の運命ですか。
だって、高秀先生は、おとなりさんで。
飛翔にもひとりでよく行ってらっしゃったわけですから。
相席になったのは運命というより、必然というか」
「相席の相手がおとなりさんだったことは、運命じゃないのか」
「高秀先生は……
あ、失礼、海崎先生は」
「高秀でいい」
「じゃ、高秀先生は、運命がいいんですか?」
「俺は――
運命だったと思う」
「そうなんですか。
あっ、今、えのきが欲しいと思ったら、えのきが。
運命的ですね」
「お前の運命、安いな」
「そういえば、宮澤さんも運命だと言ってらっしゃいましたよ」
「なにが」
「私が勤めてた前の会社に宮澤さん、電話してきたことあったらしいんですよ。
それで、私が電話とったかもしれない、運命だって」
「いや、とったかもしれないで、なんで運命なんだ」
「とってたら、運命だってことでは?」
「お前が電話番もやってたのなら、たまたまだ。
別に運命じゃないだろう」
と高秀は言い切る。
ニセ餃子を高秀の部屋で焼いて、あのベランダで一杯やる。
「高秀先生と出会ってから、なんか生活がゴージャスになりました」
「……食べてるのは、ニセ餃子なのにか?」
「だって、このベランダ、最高じゃないですかっ」
夜風に揺れる木々がライトアップの光を揺らして、実にいい雰囲気だ。
「俺は……?」
「え? 俺?」
「お前、このベランダがあれば、俺なんていなくてもいいんだろう」
「なに言ってるんですか。
高秀先生あっての、ベランダじゃないですか~」
「久里山……」
「高秀先生いないのに入ったら、不法侵入ですしね」
「……久里山」
もう帰れ、と高秀に言われてしまった。
帰れと言いながら、もう一缶持ってきてくれたので、それを呑んで、砂月は帰った。
窓から顔を出せ、無事を確認するから、と言われていたので、小さな窓を開け、
もう夜も遅かったので、ごちそうさまでしたーと小声で言って手を振る。
高秀は診察中のように真面目な顔で深く頷いていた。
そんな顔されたら、私、何処か悪いんですかと不安になるではないですか、先生、と診察を受けたわけでもないのに思う。
キッチンにはさっき置いたばかりのえのき。
「俺は――
運命だったと思う」
と真顔で言われたとき、実はちょっと、どきりとしていた。
どきりとしたので、なんとなく、えのきを買ってしまった。
……深くは追求すまい。
仕事に行きづらくなるから。
うん……と思いながら、その日はそのまま、寝た。
朝起きて、
「えのき、冷蔵庫に入れてないっ」
と叫ぶ。
休憩時間、栗饅頭を手に、砂月は呟く。
「えのきの体調が心配です」
「なんだ、えのきの体調って」
「もう暑くなってきたのに、冷蔵庫入れるの忘れてました。
今日は、えのき鍋にします」
「この暑いのにか」
俺はお前の体調が心配になるが、と高秀に言われる。
「ああ、お前のアパート、ああ見えて、エアコンあったか」
「どう見えてるんですか。
トイレも全自動だと言ったではないですか。
というか、見せたではないですか」
そんな話をしているときに、嘉子が飛び込んできた。
今日は休みだったようだ。
「高秀さん、業者を入れて掃除をしたわ、見に来てっ」
「結構だ」
「見に来てっ」
「結構だ」
「やっぱり、うちの食洗機より、砂月さんちの食洗機の方が見たいのね。
そりゃあ、砂月さんの方が私より面白いけど」
あの、私に対して、他の形容詞はないのですか?
私も一応年頃の女性なのですが。
面白い一択なのですか?
「ああ、あと、話しやすいけど」
どちらかと言うと、そちらが前の方がよかったです、と思いながら、嘉子と一緒に栗饅頭を食べた。
「なにその、食洗機見せた方が、イケメン先生と結婚できるみたいなの」
と弟の聖司が言う。
週末、いい肉をもらって、すき焼きをやるとかで、砂月は実家で晩ご飯を食べていた。
「あーあ、俺が行きたかったなあ。
その美人の女医さんの家~」
「あっ、あんた、またポーチとかついてるの買ってきてっ」
棚の上に、おまけの小さなポーチがついている、水のペットボトルがずらっと並んでいるのを見て、砂月は言う。
「いいじゃん、買っても。
水は飲むだろ?」
「水道から飲みなよ」
「水道水におまけついてないじゃないかよ」
と姉弟は、しばし、しょうもないことで揉める。
その会話を聞いていた母が、心配そうに言う。
「ねえ。
あんたその立派なお医者様にうちの話とかどう言ってんの?」
「ああ、うちの話なんて、そんなにしてないけど」
そう言うと、母は、ホッとした顔をする。
全員なんだか自堕落なので。
我が家の住人の生態を語られたくないのだろう。
そう思いながら、砂月は言った。
「話したのは、聖司のおまけ好きの話くらい。
だから、あんた、おまけの弟って呼ばれてる」
「……やめろよ。
その人、義兄さんになったらどうするんだよ」
「ならないよ。
高秀先生が私なんて相手にしないって。
あ、そうだ。
あと、洗面所のタンスの話ならしたかな」
「なんで、洗面所のタンスの話なんてするのよ?」
「なんで、洗面所のタンスの話なんてするんだよ?」
と二人同時に突っ込まれた。
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