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それ、事件じゃないんですかっ!?
先生、クビになりますよっ?
しおりを挟む「どうしたんですかっ。
先生にしては諦めよすぎですよっ。
早く成果を上げないと、支社がなくなってクビになるんですよねっ?」
と夏巳の方が前のめりに言ったが、桂は、
「いや、ああは言ったものの、今回ばかりは事件でないといいなと思って。
お前たちの楽しい体育祭が事件で台無しになったら可哀想だからな」
と言う。
……いいこと言うではないですか。
でも、この体育祭でみんなが一番楽しかったのは、おそらく、貴方に会えたことだと思うんですよね。
みんなの生き生きした顔を思い出しながら、夏巳は思う。
探偵という非日常な空間に居る人と、一致団結して作業して、ずいぶん楽しかったようだった。
そして、事件か事件じゃないかは、本来、こちらの都合と気分では決められないものだと思うんですが……。
そんなことを考えながら、夏巳は行き交う人々を見ながら呟いた。
「でも、先生……。
これ、事件じゃないんですか?」
お前が言うか、という目で、ちょうど近くに来ていた寛太たちが夏巳を見た。
おそらく、こちらで起こっていた騒ぎをなにごとかと覗きに来たのだろう。
「だって、今、先生、ガタイのいい何処かのパパさんにぶつかられても、吹き飛びませんでしたよね?」
そう夏巳は言った。
桂は身体が大きく、鍛えているようなので、すれ違いざま、ぶつかったくらいでは、吹き飛ばない気がして来たのだ。
夏巳は、意外にがっしりとしたその胸板を見ながら言う。
「もしかして、本当に誰かが先生を突き飛ばしたんじゃないんですか?
校長先生ではなく、
先生を狙って」
だが、
「いや、そんなことないだろう」
と桂自身が否定する。
「俺には、なにも狙われる理由はないからな」
……いや、なにも狙われる理由がない探偵ってどうなんだ、と夏巳は思う。
まあ、まだ平川さん撲殺されてない事件しか関わってないしな、と思ったとき、桂が言った。
「大丈夫だ。
此処で事件は起きないよ。
俺も、此処でなにも起きなくても、お前が夕方、津和野に付き合ってくれさえすれば大丈夫だ」
何故、強固に津和野に行けば事件が起きると思っているのですか。
そして、津和野の人のところでは事件は起きてもいいのですか。
そう思う夏巳の前で、小笠原が、
「ええっ? 二人で津和野に行くんですかっ?」
とおかしなところに引っかかり始める。
「夕方から行ったら、帰りは夜になるじゃないですかっ」
「なんだとっ、それはいかんっ」
と何故か、寛太も叫び始めた。
「夏巳っ、お前、まだ高校生だろう。
夜のデートは禁止だっ」
いや、デートではない……。
何故なら、みんなが楽しみにしている体育祭で事件が起こったら可哀想だと言うこの人は、二人で出かける津和野では事件は起こっていいと言う。
つまり、津和野に二人で行くのは、楽しいデートなどではない、ということだ。
それを聞いた桂は、ははは、と笑い、
「じゃあ、お父さんと小笠原さんも行きますか」
と言い出した。
「刑事さんたちが居た方が事件が起こりそうだ」
いや……警察が居ると事件が起こるのは、二時間サスペンスの中だけです。
防犯のために巡回しているおまわりさんたちのやる気を削ぐようなことを言わないでください、
と思う夏巳に、桂が言ってくる。
「まあ、ともかく、今は体育祭を楽しめ。
大丈夫だ、これは事件じゃない」
……先生。
先生がそのセリフを言うと、なんだか不気味です、と思いながら、夏巳が借り物競争に出ている間に、案の定、新たな騒ぎが起こっていた。
桂が体育館横の階段から突き飛ばされたのだ――。
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