先生、それ、事件じゃありません2

菱沼あゆ

文字の大きさ
7 / 15
それ、事件じゃないんですかっ!?

狙いはなんだろうな?

しおりを挟む
 

 側溝の水がそこから何処かに流れるようになっているのか、そこだけ深く、蓋がしてあって。

 落ちているのか置いてあるのか、大きな石があるようだった。

 何人かで蓋を開けると、少し水が残っていたせいで、その原本とやらは、流されて石の向こうの水路に入ってしまったようだった。

「手を伸ばしたら、届きそうなんだが。
 石のせいで、隙間が狭くて届かないな。

 誰か、シャベルを」
と水路を覗き込んだ桂が言う。

 はいっ、と佐川と祥華さちかが急いで大きなシャベルを持ってきた。

 桂がそのシャベルで石を持ち上げようとするのだが、重くてなかなか上手くいかない。

「先生っ、手伝いますっ」
ともうひとつシャベルを探してきたイガ栗くんが言う。

「いや、危ないから下がってろ」

 額の汗を拭い、桂がそう言うと、きゃーっと女子たちから黄色い悲鳴が上がった。

 ……ものすごい見当違いなことをしている気がするんだが。

 汗をかく姿さえ美しい。

 ぽうっとなっている女子たちの前でいい格好をしたい、とかではなく――。

 何故か、桂にいいところを見せたいらしい男子たちが、

「いえっ。
 お手伝いしますっ」
と言ったが、リレーの始まる時間だった。

 彼らはリレー選手だったようで、

「先生っ、すぐに走って帰ってきますっ」
と言って、死に物狂いで走り、彼らのチームは一位になったようだ。

 が、その盛り上がっているリレーを見ずに、夏巳は校長先生に鍵の確認をしていた。

 おそらく、桂が誰かにぶつかられて、校長も一緒に吹き飛んだというだけの話だろうが。

 前回のこともある。

 万が一にも事件につながっていてはいけないので、配置図の原本よりかは怪しい気がする鍵の確認をしてみたのだ。

 だが、鍵は一本も減っていないという。

「鍵をすり替えるのは、この短時間じゃ無理よね。
 あらかじめ、同じような鍵束を作っておくとか?」

 多少、桂に毒されながら、夏巳は束を眺めてみたが、特に重要な鍵もなさそうだった。

 いつも職員室の壁にかけてある鍵と同じ鍵だったからだ。

 体育祭の今、先生たちが出たり入ったりしているので、職員室は開けっ放しだ。

 わざわざ、校長先生が持っている鍵を狙わなくとも、あっちでとり放題のはずだ。

 みんなが、ようやく石を引きずり出した。

 びしょ濡れの原本を取り上げ、手を叩いて喜んでいる。

 校長は、
「ありがとうございますっ」
と桂に頭を下げ、両手でその原本を受け取っていた。

 そして、なんの騒ぎだと覗きに来た、来賓の副市長と秘書の人に、校長は桂を紹介しはじめる。

「探偵の蒲生桂先生です」

「蒲生です」

 桂に手を差し出され、副市長と男性秘書はその手を握っていたが。

 桂にまっすぐに見つめられ、ちょっと後退気味だった。

 ……いや、来賓の方に、ご挨拶いただくような探偵ではないのだが。

 案の定、副市長はどうしていいかわからず、
「テレビとか出られるんですか?」
と桂に訊いていた。

 混乱しているようだ。

 探偵といえば、テレビで見るもの、と思っているのかもしれない。

 生徒たちは、桂とともに大事業を成し遂げたことに(?)満足したらしく、みな、散っていった。

 桂がなにかにより狙われている、と主張する校長先生も――。

「夏巳、お疲れ様だな」
と桂が振り向き言ってきた。

「先生こそ、お疲れ様です」

 なんだかわからないけど、無駄に頑張ってたからな、と苦笑いしながらも夏巳が言うと、そこで正気に返ったらしい桂が言う。

「結局、なくなってたものはなかったんだよな」

「……そうですね」

「おかしいな、狙いは校長先生じゃないのかな」

 だから、最初からそう言ってます……と夏巳が思ったとき、ビデオカメラを手にした何処かのパパさんが桂の背にぶつかった。

 本部テント裏と倉庫、そして、側溝に囲まれた狭い場所だが。
 人通りが激しいからだろうか。

「あっ、すみませんっ」

 可愛い我が子の姿を映そうと急いでいたらしいおヒゲのパパさんが振り返る。

 いやいや、と桂は笑って応対していた。

「……先生」
とその様子を見ながら夏巳が言いかけたとき、桂が、ぽつりと言った。

「これは……事件じゃないのかもしれないな」

 ――どうしたんですかっ、先生っ!?



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ
ホラー
 変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?  突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。  ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。  七竃が消えれば、呪いは消えるのか?  何故、急に七竃が切られることになったのか。  市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。  学園ホラー&ミステリー

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...