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それ、事件じゃないんですかっ!?
狙いはなんだろうな?
しおりを挟む側溝の水がそこから何処かに流れるようになっているのか、そこだけ深く、蓋がしてあって。
落ちているのか置いてあるのか、大きな石があるようだった。
何人かで蓋を開けると、少し水が残っていたせいで、その原本とやらは、流されて石の向こうの水路に入ってしまったようだった。
「手を伸ばしたら、届きそうなんだが。
石のせいで、隙間が狭くて届かないな。
誰か、シャベルを」
と水路を覗き込んだ桂が言う。
はいっ、と佐川と祥華が急いで大きなシャベルを持ってきた。
桂がそのシャベルで石を持ち上げようとするのだが、重くてなかなか上手くいかない。
「先生っ、手伝いますっ」
ともうひとつシャベルを探してきたイガ栗くんが言う。
「いや、危ないから下がってろ」
額の汗を拭い、桂がそう言うと、きゃーっと女子たちから黄色い悲鳴が上がった。
……ものすごい見当違いなことをしている気がするんだが。
汗をかく姿さえ美しい。
ぽうっとなっている女子たちの前でいい格好をしたい、とかではなく――。
何故か、桂にいいところを見せたいらしい男子たちが、
「いえっ。
お手伝いしますっ」
と言ったが、リレーの始まる時間だった。
彼らはリレー選手だったようで、
「先生っ、すぐに走って帰ってきますっ」
と言って、死に物狂いで走り、彼らのチームは一位になったようだ。
が、その盛り上がっているリレーを見ずに、夏巳は校長先生に鍵の確認をしていた。
おそらく、桂が誰かにぶつかられて、校長も一緒に吹き飛んだというだけの話だろうが。
前回のこともある。
万が一にも事件につながっていてはいけないので、配置図の原本よりかは怪しい気がする鍵の確認をしてみたのだ。
だが、鍵は一本も減っていないという。
「鍵をすり替えるのは、この短時間じゃ無理よね。
あらかじめ、同じような鍵束を作っておくとか?」
多少、桂に毒されながら、夏巳は束を眺めてみたが、特に重要な鍵もなさそうだった。
いつも職員室の壁にかけてある鍵と同じ鍵だったからだ。
体育祭の今、先生たちが出たり入ったりしているので、職員室は開けっ放しだ。
わざわざ、校長先生が持っている鍵を狙わなくとも、あっちでとり放題のはずだ。
みんなが、ようやく石を引きずり出した。
びしょ濡れの原本を取り上げ、手を叩いて喜んでいる。
校長は、
「ありがとうございますっ」
と桂に頭を下げ、両手でその原本を受け取っていた。
そして、なんの騒ぎだと覗きに来た、来賓の副市長と秘書の人に、校長は桂を紹介しはじめる。
「探偵の蒲生桂先生です」
「蒲生です」
桂に手を差し出され、副市長と男性秘書はその手を握っていたが。
桂にまっすぐに見つめられ、ちょっと後退気味だった。
……いや、来賓の方に、ご挨拶いただくような探偵ではないのだが。
案の定、副市長はどうしていいかわからず、
「テレビとか出られるんですか?」
と桂に訊いていた。
混乱しているようだ。
探偵といえば、テレビで見るもの、と思っているのかもしれない。
生徒たちは、桂とともに大事業を成し遂げたことに(?)満足したらしく、みな、散っていった。
桂がなにかにより狙われている、と主張する校長先生も――。
「夏巳、お疲れ様だな」
と桂が振り向き言ってきた。
「先生こそ、お疲れ様です」
なんだかわからないけど、無駄に頑張ってたからな、と苦笑いしながらも夏巳が言うと、そこで正気に返ったらしい桂が言う。
「結局、なくなってたものはなかったんだよな」
「……そうですね」
「おかしいな、狙いは校長先生じゃないのかな」
だから、最初からそう言ってます……と夏巳が思ったとき、ビデオカメラを手にした何処かのパパさんが桂の背にぶつかった。
本部テント裏と倉庫、そして、側溝に囲まれた狭い場所だが。
人通りが激しいからだろうか。
「あっ、すみませんっ」
可愛い我が子の姿を映そうと急いでいたらしいおヒゲのパパさんが振り返る。
いやいや、と桂は笑って応対していた。
「……先生」
とその様子を見ながら夏巳が言いかけたとき、桂が、ぽつりと言った。
「これは……事件じゃないのかもしれないな」
――どうしたんですかっ、先生っ!?
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