先生、それ、事件じゃありません2

菱沼あゆ

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それ、事件じゃないんですかっ!?

おい、探偵……

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 夏巳は体育館横の非常階段を見上げて呟く。

「今回といい、前回といい、先生が毎度たいした怪我をしてないのが気になりますね」

「……お前、俺に大怪我しろというのか」
と言う桂に、

 そうじゃないですよ、と夏巳は言う。

「先生、今、怪我したらどうします?」

「怪我の度合いによるな」

「結構、あいたたたな感じだけど、重傷でもない怪我の場合です」

 そりゃ、と桂は少し考え、
「とりあえず、帰るな。
 此処に居ても邪魔だろうから」
と言う。

「それですよ。
 犯人は、先生に怪我をさせたいというより、此処から帰って欲しい人なのかもしれ……」

 しれません、と夏巳が言い終わらないうちに、

「わかったわっ」
「私もわかったよっ」
と祥華と佐川が声を上げた。

 え? なにが……?
と夏巳が見ると、

「犯人は、先生にさっさと帰って欲しかった男!」

「そうっ。
 先生より、自分がイケメンだと思ってる男よっ」
と二人が叫ぶ。

 息ぴったりですね……と思っている間にも、佐川は、たまたま通りかかった夏巳の隣のクラスの自称イケメン、竹越たけこしを締め上げ始めた。

「お前かーっ」

「ええっ?
 なんですかっ、先輩っ」

 いや、ほんと、なんですかだよね、竹越くん……。

 ごめんね、とその様子を見ながら夏巳は言った。

「ま、まあ、そういう可能性もなきにしもあらずなんですが。
 竹越くんなんかは、自分が一番と思ってる人だから、他人に攻撃なんて加えないと思うんですよね」

 好みの問題もあるだろうが。

 先生ほどの人が現れても、彼は自分が余裕で一番とか思ってそうな人なので。

 先生を攻撃するとかないような気がするのだ。

「先生」
「なんだ」

「犯人は、先生に長く此処に居られると困ったことになる人なんじゃないですかね?」

「どんな人だ、それは」

 推理丸投げか、名探偵……と思いながらも、夏巳は言う。

「例えば――

 そうですね。
 先生と長く顔を突き合わせていると、先生がなにか思い出してしまいそうだとか?」

「なにかってなんだ」

 いや、だから丸投げか、と思いながらも夏巳は言った。

「例えば、先生になにかを目撃された人物が居るとか?
 それで、先生が自分を見て、あ、あのときの奴、とか思い出してしまいそうだとか。

 でもまあ、先生、二回も突き飛ばされているので。
 根気よく調べていけば、怪しい人物はあぶり出せるかもしれませんね。

 これだけ人が居るんです。
 人に紛れて、犯行を犯すことも可能でしょうが。

 これだけ人が居るからこそ、誰にも目につかずにいることもまた不可能でしょうから」

 夏巳がそう言ったとき、
「お前かーっ」
と今度は、副市長秘書のイケメンを捕まえて、佐川が言い出した。

 あわわわ、と近くに居た教頭が慌てたとき、
「すみませんっ。
 私がやりましたっ」
という声が、イケメン秘書とは違う場所から聞こえてきた。


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