先生、それ、事件じゃありません2

菱沼あゆ

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それ、事件じゃないんですかっ!?

二人で津和野に行こう

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「よかったですね、先生。
 名探偵って認めてもらえて」

 でも、誰も聞いてなかったし、誰にもこの話できないですけど……と去っていく秘書の人を見ながら夏巳が言うと、

「いや、お前が聞いててくれただろ」
と桂は言ってくる。

 そ、そんなこと言われて、見つめられると、ときめいてしまいそうになるではないですか……と思いながら、夏巳は、夕陽に淡い色の髪と瞳が映える桂から視線をそらした。

「まあ、たいした事件も起こらず、あの秘書の奥さんも無事でよかった。

 俺のことなら大丈夫だ。
 誰にも認められなくても、怪我した場所がうずいても――」

 やっぱ、結構痛かったんですね、と夏巳は苦笑いして、擦り傷の残る桂の顔や手足を見る。

「俺は――
 この先も、お前が一緒に居てくれればそれでいい」

 そう言いながら、桂は夏巳の手を握ってきた。

 ええっ?
 どうしたんですかっ、急にっと思ったとき、桂が言った。

「お前と居ると、いつもなにやら事件が起こるからな。

 明日は、二人で津和野に行こう。

 大丈夫だ。
 お前が居れば、きっと殺人事件が起こるに違いない」

 いや、貴方、今、何事もなくてよかった的なことを言ってましたよね。

 津和野の人はどうなってもいいんですか。

「さ、殺人はちょっと……」
と手を握られたまま夏巳が言うと、

 ああ、そうだな、と気づいた桂が、
「じゃあ、特に誰も傷つかないが、萩支社のすごい実績になるような事件が起きるといいな」
と言い出す。

「……それ、難事件が起こるより難しくないですかね?」
と夏巳が言ったとき、校舎の前から祥華たちが、桂に手を握られている夏巳を見咎みとがめ、叫んできた。

「ちょっと、なにしてんのよ、夏巳ーっ」

「品川夏巳ーっ、あんたの鞄は預かったっ。
 校舎裏まで来なさいよーっ」

 佐川が教室に置いていた夏巳のリュックを振り回しているのが見える。

 ひいっ、と夏巳は固まったが、桂は、
「おっ、友だちが呼んでるな。
 仲良く帰れよ。

 じゃあ、また明日」
と夏巳から手を離し、笑顔で去っていく。

「いやっ、先生っ。
 今、まさに大事件が起こりそうなんですけどっ。

 先生っ。

 待ってくださいよっ、ちょっとっ。
 今から、校舎裏で大事件が起きますよっ!

 ……さっさと帰るなーっ、このへっぽこ探偵ーっ!」

 だが、桂の姿は、もう裏門の坂道に消えていた。

「あんた、なに一人がいいことしてんのよ~っ」
「今度、先生の事務所連れていきなさいよっ」

 わらわら湧いてくる女生徒たちに、
 ひーっ、増えてるっ!
と夏巳は悲鳴を上げる。

 テントもなくなり、夕暮れの風に舞う砂埃だけが残ったグラウンド。

 祥華と佐川に両脇を抱えられながら、夏巳は消えた桂に向かい、
 
 もう~っ。
 先生、明日、絶対、いっぱいおごらせますからねーっ!

 そう心の中で絶叫していた。



                           完




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みんなの感想(2件)

2023.05.29 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2023.05.29 菱沼あゆ

岡本圭地さん、
ありがとうございます(⌒▽⌒)
もう完結します。
頑張りますね~。

解除
johndo
2023.05.15 johndo

前作では、タグに恋愛がなかったので、桂と夏巳には、そういった感情はお互い芽生えないのかと思っていたら、今回、タグに恋愛が!
探偵事務所の行方も気になりますし、今後の展開が楽しみです!

2023.05.16 菱沼あゆ

johndoさん、
ありがとうございますっ(⌒▽⌒)

前回、恋愛タグ、なかったですか。
つけ忘れですっ。
すみません~っ(^^;

とはいえ、あまり進展しそうにない二人なんですが……。

ありがとうございます。
頑張りますね~(⌒▽⌒)/

解除

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