15 / 15
それ、事件じゃないんですかっ!?
二人で津和野に行こう
しおりを挟む「よかったですね、先生。
名探偵って認めてもらえて」
でも、誰も聞いてなかったし、誰にもこの話できないですけど……と去っていく秘書の人を見ながら夏巳が言うと、
「いや、お前が聞いててくれただろ」
と桂は言ってくる。
そ、そんなこと言われて、見つめられると、ときめいてしまいそうになるではないですか……と思いながら、夏巳は、夕陽に淡い色の髪と瞳が映える桂から視線をそらした。
「まあ、たいした事件も起こらず、あの秘書の奥さんも無事でよかった。
俺のことなら大丈夫だ。
誰にも認められなくても、怪我した場所が疼いても――」
やっぱ、結構痛かったんですね、と夏巳は苦笑いして、擦り傷の残る桂の顔や手足を見る。
「俺は――
この先も、お前が一緒に居てくれればそれでいい」
そう言いながら、桂は夏巳の手を握ってきた。
ええっ?
どうしたんですかっ、急にっと思ったとき、桂が言った。
「お前と居ると、いつもなにやら事件が起こるからな。
明日は、二人で津和野に行こう。
大丈夫だ。
お前が居れば、きっと殺人事件が起こるに違いない」
いや、貴方、今、何事もなくてよかった的なことを言ってましたよね。
津和野の人はどうなってもいいんですか。
「さ、殺人はちょっと……」
と手を握られたまま夏巳が言うと、
ああ、そうだな、と気づいた桂が、
「じゃあ、特に誰も傷つかないが、萩支社のすごい実績になるような事件が起きるといいな」
と言い出す。
「……それ、難事件が起こるより難しくないですかね?」
と夏巳が言ったとき、校舎の前から祥華たちが、桂に手を握られている夏巳を見咎め、叫んできた。
「ちょっと、なにしてんのよ、夏巳ーっ」
「品川夏巳ーっ、あんたの鞄は預かったっ。
校舎裏まで来なさいよーっ」
佐川が教室に置いていた夏巳のリュックを振り回しているのが見える。
ひいっ、と夏巳は固まったが、桂は、
「おっ、友だちが呼んでるな。
仲良く帰れよ。
じゃあ、また明日」
と夏巳から手を離し、笑顔で去っていく。
「いやっ、先生っ。
今、まさに大事件が起こりそうなんですけどっ。
先生っ。
待ってくださいよっ、ちょっとっ。
今から、校舎裏で大事件が起きますよっ!
……さっさと帰るなーっ、このへっぽこ探偵ーっ!」
だが、桂の姿は、もう裏門の坂道に消えていた。
「あんた、なに一人がいいことしてんのよ~っ」
「今度、先生の事務所連れていきなさいよっ」
わらわら湧いてくる女生徒たちに、
ひーっ、増えてるっ!
と夏巳は悲鳴を上げる。
テントもなくなり、夕暮れの風に舞う砂埃だけが残ったグラウンド。
祥華と佐川に両脇を抱えられながら、夏巳は消えた桂に向かい、
もう~っ。
先生、明日、絶対、いっぱいおごらせますからねーっ!
そう心の中で絶叫していた。
完
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
七竈 ~ふたたび、春~
菱沼あゆ
ホラー
変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?
突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。
ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。
七竃が消えれば、呪いは消えるのか?
何故、急に七竃が切られることになったのか。
市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。
学園ホラー&ミステリー
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
ちゃぶ台の向こう側
仙道 神明
キャラ文芸
昭和のまま時が止まったような家に暮らす高校生・昭一。
悩みを抱えながらも周囲に心を閉ざす少女・澪が、ある日彼の家を訪れる。
ちゃぶ台を囲む家族の笑い声、昭和スタイルの温もり――
その何気ない時間が、澪の心に少しずつ光を灯していく。
ちゃぶ台を囲むたびに、誰かの心が前を向く。
忘れかけた“ぬくもり”と“再生”を描く、静かな人情物語。
※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」にも重複掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
岡本圭地さん、
ありがとうございます(⌒▽⌒)
もう完結します。
頑張りますね~。
前作では、タグに恋愛がなかったので、桂と夏巳には、そういった感情はお互い芽生えないのかと思っていたら、今回、タグに恋愛が!
探偵事務所の行方も気になりますし、今後の展開が楽しみです!
johndoさん、
ありがとうございますっ(⌒▽⌒)
前回、恋愛タグ、なかったですか。
つけ忘れですっ。
すみません~っ(^^;
とはいえ、あまり進展しそうにない二人なんですが……。
ありがとうございます。
頑張りますね~(⌒▽⌒)/