雨屋敷の犯罪 ~終わらない百物語を~

菱沼あゆ

文字の大きさ
22 / 70
第一の殺人

こいつ、神秘的と言うよりは……

しおりを挟む


「霊を誘拐ね。
 じゃあ、犯人は霊が見える奴だな」

 谷本が何処かに行ったあと、広く薄暗い雨屋敷の廊下を歩きながら峻が言ってきた。

「そうね。
 誰かから聡さんの存在を聞いていた可能性もあるけど。

 噂話には敏感な信子さんたちもトイレの霊のことは知らなかったみたいだし」
と言う彩乃に嵩人は、

「だが、霊が見える人間なんて、この屋敷には吐いて捨てるほど居るぞ」
と言った。

 そうねえ、と言う彩乃の横顔を嵩人はチラと見る。

 彩乃は、あまり感情が顔に出ないので、なにを考えているのか、よくわからない。

 そういうところが神秘的だと高校のときなど、彩乃に憧れる男も多かったのだが。

 いや、こいつ、かなりの確率で、なにも考えてないか、ロクでもないこと考えてるかのどっちかなんだが、と嵩人は思っていた。

「でも、もし、誰かが山村のおじさまの件で、聡さん入りの便器を持って逃げたのなら、やっぱり、あれは殺人事件だったってことなのかしら?」
と呟く彩乃に、嵩人は、

「お前だろ。
 密室殺人だとか騒いでいたのは」
と言ってやる。

「そうだけど。
 一応、自殺の可能性もあるじゃない」

 そこで、黙ってなにか考えていたらしい峻が口を開いた。

「彩乃。
 お前はいつもその聡やらにおやすみの挨拶をしていたわけだろう?

 犯人が聡の存在に気づいていたのなら、そのことも知っていた可能性はあるよな。

 だったら、犯人はなにかを知ってしまった聡がお前と話すことを阻止するためにトイレに電気をつけておいて、お前が来ないようにし。

 それから聡を連れて逃げたんじゃないか?」

 そうね、そうかもしれないわね、と彩乃は頷く。

「連れて逃げられるとき、聡は騒がなかったのかな」
と嵩人は呟いた。

「どうかしら? 聡さんって、ぼんやりしてるから。
 いつも本読んでるし。

 気づかないまま連れ去られてそう。
 そういえば、聡さんって、何年も同じ本読んでるみたいなのよね。

 ページも変わってないみたいなんだけど」
と無表情のまま、彩乃は小首を傾げていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...