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第一の殺人
こいつ、神秘的と言うよりは……
しおりを挟む「霊を誘拐ね。
じゃあ、犯人は霊が見える奴だな」
谷本が何処かに行ったあと、広く薄暗い雨屋敷の廊下を歩きながら峻が言ってきた。
「そうね。
誰かから聡さんの存在を聞いていた可能性もあるけど。
噂話には敏感な信子さんたちもトイレの霊のことは知らなかったみたいだし」
と言う彩乃に嵩人は、
「だが、霊が見える人間なんて、この屋敷には吐いて捨てるほど居るぞ」
と言った。
そうねえ、と言う彩乃の横顔を嵩人はチラと見る。
彩乃は、あまり感情が顔に出ないので、なにを考えているのか、よくわからない。
そういうところが神秘的だと高校のときなど、彩乃に憧れる男も多かったのだが。
いや、こいつ、かなりの確率で、なにも考えてないか、ロクでもないこと考えてるかのどっちかなんだが、と嵩人は思っていた。
「でも、もし、誰かが山村のおじさまの件で、聡さん入りの便器を持って逃げたのなら、やっぱり、あれは殺人事件だったってことなのかしら?」
と呟く彩乃に、嵩人は、
「お前だろ。
密室殺人だとか騒いでいたのは」
と言ってやる。
「そうだけど。
一応、自殺の可能性もあるじゃない」
そこで、黙ってなにか考えていたらしい峻が口を開いた。
「彩乃。
お前はいつもその聡やらにおやすみの挨拶をしていたわけだろう?
犯人が聡の存在に気づいていたのなら、そのことも知っていた可能性はあるよな。
だったら、犯人はなにかを知ってしまった聡がお前と話すことを阻止するためにトイレに電気をつけておいて、お前が来ないようにし。
それから聡を連れて逃げたんじゃないか?」
そうね、そうかもしれないわね、と彩乃は頷く。
「連れて逃げられるとき、聡は騒がなかったのかな」
と嵩人は呟いた。
「どうかしら? 聡さんって、ぼんやりしてるから。
いつも本読んでるし。
気づかないまま連れ去られてそう。
そういえば、聡さんって、何年も同じ本読んでるみたいなのよね。
ページも変わってないみたいなんだけど」
と無表情のまま、彩乃は小首を傾げていた。
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