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第三の殺人
誰が生者で、誰が死者なのか
しおりを挟む香奈と昔話をしたあとで、気を利かせて彼女が居なくなると、清水はようやく語り出した。
「高校時代から、松子は少し心を病んでいた。
大人になってからの方が症状はひどくなっていたようだな」
まあ、その頃には俺も仕事が忙しくてあまり会わくなっていたから、と清水は言う。
「でも……、松子は死ぬのなら一人で死にそうな気がしてた。
それなのに、心中っていうのが、引っかかってな」
「そうだったんですね。
だったら、さっき、三千子さんに話を聞いてみればよかったじゃないですか」
「……三千子?」
「あれ? ご存知なかったんですか?
松子さんの年の離れた妹です」
清水はようやくそれが誰だか思い当たったようだった。
「さっき、玄関に居たあれ、三千子なのかっ!?
俺が見たときは小学生だったぞっ」
「それ、何年前の話ですか……」
「っていうか、あれ、生きた人間だったのかっ?」
「松子さんの霊だと思ってたんですか?
松子さんなら、そこに居るじゃないですか」
と彩乃は白いソファの部屋の方を指さしたが、
「あれ動かないから、残像かと思ってたんだよっ」
と清水は叫ぶ。
三千子さーん、と彩乃は廊下に出て、三千子を呼んだ。
すぐにやってきた白っぽい着物姿の三千子に、
「この人、お姉さんのお友だちの清水さんですよ」
と教えると、
「ええっ? 清水さんっ?
やだっ、おかわりな……
おかわり、ありますね」
と松子とは全然違う陽気さで、三千子は笑った。
「全くキャラ違うな……」
と清水は呟く。
「三千子さんが松子さんと似た物静かな雰囲気に見えたのだとしたら。
それはきっと、清水さんが自分を凝視するから、なんだろう、この人って思って、怪訝な顔で見ていたからですよ」
そう言ってやると、三千子は笑っていた。
少し思い出話をして三千子が去ったあと、清水が叫んだ。
「だいたい、まぎらわしいんだよっ、この家はっ。
誰が生きてて、誰が死んでんだよっ。
ってか、結局、三千子もなにも知らなかったじゃねえかよっ」
「三千子さん、当時、一年生くらいでしたもんね。
でも、三千子さんを霊だと思っていたのなら、それこそ、話聞いたらよかったんですよ。
だって、この雨屋敷の人間でも、霊が見えてない人、結構居るんですから」
見えないまま、なにかしているかもしれない……と彩乃は笑って見せる。
そのとき、廊下を行ったり来たりしている融の姿がダイニングから見えた。
死んでなお、競馬新聞を見ながら、ウロウロしている融の姿を見て呟く。
「松子さんは融おじさまが好きで、後追い自殺したんですかね?
何故、真面目ないい人は駄目男が好きなんでしょう?」
「俺も駄目男になればよかったのかな。
……なんだ、その目は」
清水さんもそれなり駄目男ですよ、と思ったのが視線に表れてしまっていたようだ。
やはり、目は口程に物を言うらしい。
「しっかし、次から次へと事件が起こって、なにから解決していいのかわかりゃしねえ」
と清水が怒ったように言いながら煙草を出そうとする。
そして、
「此処も禁煙か」
と訊いてきた。
「禁煙ではないです。
おじさんたち結構吸いますから。
まあ、私は嫌いですけどね、煙草の煙」
「素直に駄目だと言えよ……」
と言いながら、清水は煙草を手に外に出ていった。
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