5 / 13
強力なライバルが現れました
犯人が来ました
しおりを挟むそんな風に将生や琳が揉めている頃、とある犯人が猫町3番地を訪れていた。
琳の傘をすり替えた犯人だ。
スーパーを出たあと、立ち寄った書店の入り口で見たフリーペーパーに、この猫町3番地が出ていて。
美しい女店主も載っていたのだ。
あの人は喫茶店の人だったのか。
誰でも入れる喫茶店に居ると知ったら、行ってみたい衝動が止まらない。
危険とわかっていて、つい、此処まで来てしまった。
傘を傘立てではなく、見えない位置に置いたあと。
玄関の庇の下で、店を入るかどうか迷っていると、美しい女店主がこちらに向かいやってきた。
後ろを向いて話しながら、出てきた彼女は、
「この傘ですよ」
と言いながら、自分がすり替えたあの傘を傘立ての中からつかむ。
ひっ、と心臓が縮み上がる心地がした。
そこでようやく、女店主はこちらに気づき、あら、という顔をした。
「いらっしゃいませ。
どうぞ」
と微笑まれ、つい、ふらふらっと店の中に入ってしまう。
店舗の中は、予想通りのいい雰囲気だった。
まるで森林の中にいるような心地よい空間。
……なのだが、女店主が傘をつかんだままなのが気になった。
彼女は、
「この傘です。
似てるでしょう?」
と言いながら、何故かカウンターまであの傘を持って行く。
カウンターには驚くような男前で体格のいい男が座っていた。
その横には細身でちょっと年配の男。
反対側には、ぽっちゃりとした、ちょっと安心感のある男が居た。
全員スーツ姿だ。
何処かの職場の人たちが来てるのかな、とそちらを窺いながら、隅の席に腰掛ける。
すると、いきなり、前の席のおばちゃんが振り返り、声をかけてきた。
「ちょっとあんた」
ひっ。
できるだけ気配を消して、片隅に居るのに、なにかご迷惑おかけしましたかっ? と身構える自分に、おばちゃんは言った。
「そんな隅っこに座らなくても。
あっち空いてるわよ、窓際の席。
今日はあの辺の席が指定席な人たちが来てないから。
庭、少しライトアップしてあるから綺麗よ。
手入れも行き届いてるし」
まあ、琳ちゃんが手入れしてるわけじゃないんだけど、と人懐こいそのおばちゃんは笑う。
は、はあ、ありがとうございます。
大丈夫です、と返事をしながら、
まずいな、常連客が多い店なのか。
じゃあ、片隅に居ても目についてしまうな、と思ったとき、カウンターの前に立つ女店主が傘を見ながら話しているのが聞こえてきた。
「私が犯人で、この傘が凶器なら、先端で喉を突いたりはしませんよ」
え……、と固まり、カウンターを見たとき、さっきのおばちゃんが小声になって言ってきた。
「あんた、此処で見聞きしたこと、言っちゃ駄目だよ。
あの人たち、刑事さんで、事件の話してるんだから」
ええっ? 刑事っ?
将生は刑事ではないのだが、おばちゃんたちにとっては、刑事も監察医も全部同じ警察の人、という認識でしかなかった。
何故、刑事があの傘を……。
っていうか、喉を突いたってなにっ!?
メニューを持つ手がつい震えてしまう。
「お前がそう言い切る理由も気になるが。
その話を聞く前に、まず、あそこのお客さんのオーダーとってこい」
と真ん中に座っていたイケメンがこちらを見ながら、あの女店主に命じる。
……この人は刑事ではないのだろうか?
店のオーナーとか? と思ったとき、水の入ったトレーを手に、みんなに、雨宮さんとか、琳ちゃんと呼ばれている、その女店主が苦笑いして、やってきた。
「すみません。
注文決まりました?」
遠目に見ていただけのときは、透明感のある美人だな、と思っていたのだが。
実際に話したりすると、愛嬌があって可愛い感じだ。
それにしても、そんなことを今、考えているだなんて、我ながら呑気なことだ。
そう思いながら、とりあえず、ブレンドを注文した。
「はい、謎のブレンドですね」
うっかり、と言った感じでそう言った雨宮琳は、
え? 謎の? という顔をしたこちらに気づき、
「あ、いえ。
普通のブレンドです。
ブレンド1入りましたー」
とカウンターに向かって言い、あのイケメンに、
「なんでこっち向いて言う。
俺に淹れさせるつもりかっ」
と静かに怒られていた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる