ここは猫町3番地の4 ~可哀想な犯人~

菱沼あゆ

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犯人(?)の告白

すがる相手を間違っている

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「助けてくださいっ。
 刑事さんっ」

 英春ひではるは勢いあまってか、そう叫び、琳の腕をつかんできた。

 いや、刑事は、あっちです、と琳は佐久間たちを見るが、英春はなおも琳に向かい、訴えてくる。

「僕、傘で絵を破いただけなのに!」

「いや、だけとか言う問題じゃないだろ」
 人の物を壊しておいて、と将生が英春を叱った。

「被害者には謝りますっ。
 ムカつく奴だけどっ。

 破いたのは、俺の絵が凄すぎて、悔しかったんだろう。
 俺に負けたと認めるんだなっ、とか高笑いするのが目に浮かぶけどっ」

 なんか謝りたくなさそうだ……。

「店長さん……雨宮さんの傘もすり替えてすみませんでしたっ。

 でも、やってもないのに、殺人犯にはなりたくないですっ。
 助けてくださいっ!」
と英春は琳に泣きついてきた。

 だが、将生は冷ややかに英春を見て言う。

「俺たちにじゃなく、雨宮に引っ付いて、泣きついてる時点であまり反省してないように思えるんだが……」

「いや、何故ですかっ。
 反省してますよっ」
と言う英春に、将生は、

「じゃあ、雨宮じゃなく、そっちの二人のどっちかにすがりつけ」
と刑事である男二人を指差した。

 突然のご指名を受けた二人は、えっ? と戸惑いながらも、英春にウエルカムな姿勢を示す。

 さあ、おいで、という感じに佐久間があったかそうな腕を広げ、

 では、どうぞ、と生真面目な感じに椋木が細い腕を広げた。

「……いえ、結構です」
と言いながら、英春は琳から離れた。

 おばちゃんたちは、
「そりゃ、どうせなら、美人のおねえさんの方がいいわよねえ」
と笑っている。
 
「それにしても、別にすり替えたり置いて帰ったりしなくても、バレなかっただろうに」

 将生は英春にそう言っていたが、英春は、
「家にあの傘置いていたくなかったんです」
と言う。

「その、視界に入ると、ちょっと罪の意識が……。

 なんだかんだで、あいつも一生懸命描いた絵なんだろうし、とか思ってしまったり。

 それで、傘をよそに置き逃げしようと思って。
 ただ置いて帰ればよかったんでしょうが。

 ちょうどそこに、雨宮さんが僕のと同じような傘を持って現れて。

 霧雨の中、傘を差して歩く雨宮さんの姿があまりにも綺麗だったんで。

 この、犯罪なんかに縁のなさそうな清廉な美女が、僕の罪のあかしである傘を知らずに差して歩いてるとか、ゾクゾクくるなとか思っちゃって。

 美しく清らかなものを踏み散らかしてる感じがして」

「……いや、なんかお前の方が踏み散らかされてる感じだぞ」
と仕込み刀の傘を見ながら、将生は言う。

「なんてものを高校生に持たせるんだ……」
と何故か琳の方が将生に叱られた。



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