ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ

文字の大きさ
25 / 86
運命が連れ去られました

御伽噺の教訓

しおりを挟む
 
 偶然だという話を信じたんだろうかな。

 あまり突っ込んで訊いてこなかったが、と思いながら、あかりは夜、おねむになった日向に絵本を読んでやっていた。

 眠り姫だ。

 一緒に布団に寝転んで本を読んでいると、来斗が覗いて言う。

「なんで眠り姫だよ。
 もっと男が好きそうな本読んでやれよ。

 桃太郎とか、一寸法師とか」

「日向が、いい王子様になるようによ」

「……なんだ、いい王子って。
 お前の相手は悪い王子か?」

 その悪い王子が敬愛する社長だとも知らずに来斗は言う。

「ねえ、来斗はなんで、今の会社に派遣されたの?」

 それもまた、ビックリするくらいの偶然だな、と思って訊いたが。

「派遣先、俺が決められるわけじゃないよ。
 だけどまあ、確かに今回は選べたんだ。

 どっち行く?
 って上司に訊かれて。

 提示されたの、どっちもいい会社だったんだけど。

 ほら、姉ちゃん、インテリアの雑誌、その辺に放り出してんじゃん。

 あれに、木南社長の会社の家具、よく載ってるから。

 いい家具扱ってんだなーと思って印象に残ってたんだ」
と来斗は笑う。

 そうか。
 私のせいだったのか――。

 あそこで、車が突っ込んでこなくても。

 いつか来斗を通じて、もう一度、出会えていたのだろうか?

 私は無意識のうちに、あの人を引き寄せようとしていたのか……?

 いやまあ、雑誌を片付けなかったのは、単にだらしないからで。

 弟の脳に青葉さんの会社を刷り込もうとしたからではないのだが……。

「ねえねえ、お姫様はどうなったの?」
と日向に訊かれ、あかりは言った。

「お姫様はいろんなことがめんどくさくなったので、ずっと寝ていました」

 おいおい、という顔を来斗がする。

「……だけど、お城にいきなり馬車が突っ込んできて、お姫様が寝ている塔も倒れかかりました。

 命の危険を感じたお姫様は飛び起き、
『地震だーっ!』
と叫んで、下を見ると、城を守っているはずのイバラがぐちゃぐちゃに崩されていました」

「……なにそれ、社長?」
と来斗が苦笑いする。

「社長、何故だかわからないけど、お前に気があるようだから。
 悪い王子のことは忘れて、社長とのことを前向きに考えてみたら?」

 そう来斗に言われたが、

 ……いや、だから、悪い王子も青葉さんなんだけどね、とあかりは思っていた。

 でも、悪い王子の一部は別人だったか。

 蔑むように私を見ていた悪王子は、青葉さんではなかった。

 でも――

 どのみち、私の青葉さんは、もうこの世にいない。

 あの青葉さんは、あの人が記憶を失っていた二週間の間にしか存在してなかったんだ。

 私といたのは、そのうちの一週間。

 期間限定の王子様。

 二度と手に入らない。

 そんなお菓子の季節限定商品みたいな父親を持った日向の頭を撫でる。

 日向は撫でられて、ただ嬉しそうにしていた。

 魔法の解けた王子様は、姫に見向きもしませんでした、か。

 いや、そのわりに、せっせと通ってきてくれてはいるんだが……。

 そもそも、私、姫って感じでもないしなー。

 あかりがそんなことを考えていたとき、来斗が言った。

「この話の教訓ってなんだろうな?
 果報は寝て待て?」

 開いたままの眠り姫の絵本を見て、来斗は笑う。

 あかりは、そのページの真っ白なシーツの上で眠る姫を見、

 誰がかけかえてたんだろうな? シーツ、
と思いながら言った。

「寝ると美容によくて、起きると老け込む」

「……なんでだ」

「だって、寝ている間、姫の老化、止まってたんでしょ?」

「……違うだろうよ」
と言う来斗に言う。

「じゃあ、あんたが日向に聞かせたがっている桃太郎とか一寸法師の教訓ってなによ」

「なにをしても勝て。
 鬼を倒しても、宝を奪え」

 どんな荒々しい教訓だ。

 日向は、二人の話をきゃっきゃっと聞いていて、目が覚めてしまったようだ。

「起きちゃったじゃないの。
 来斗、ホットミルク」

「ほっとみるくー」
と日向も真似をする。

 はいはい、と素直に行く来斗に日向と顔を見合わせ、笑ったあとで、あかりは眠り姫の絵本をパラパラとめくってみた。

 物語の最後はいつもハッピーエンド。

 誰かを騙したり、倒したりしても、ハッピーエンド。

 主人公なら、許されるのだろうか。

 私は主人公じゃないから、きっと許されないな。

 その日の夢の中。

 金棒を手にした寿々花が現れた。

 赤いもじゃもじゃパーマのかつらを被り、高級そうな虎柄のビキニを着ている。

「なんて格好させるのよっ」
と夢の中でも怒っていた。


 この夢、

 ――きっとバレたら殺される。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。            えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。 × 沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。             実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。 大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。 面接官だった彼が上司となった。 しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。 彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。 心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。 「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。 小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。 若くしてプロジェクトチームを任される彼は、 かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、 遠く、眩しい存在になっていた。 優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。 もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。 それでも—— 8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。 これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。

処理中です...