66 / 86
ゼロどころか、マイナスからの出発
一番恐ろしいものは……
しおりを挟む一日、動物園で楽しんだあと、みんなでちょっと早めの夕食を食べようと車で移動することになった。
寿々花が、
「私は真希絵さんちの車に乗せてもらうことになったから。
あなたは、あかりさんと日向を乗せていきなさい」
と青葉に言う。
……なんでしょう、その家族三人でドライブみたいなの、とあかりは照れる。
「よ、よしっ。
じゃあ、行くか」
と青葉は張り切って日向のチャイルドシートを自分の車の後部座席に付け替えていた。
カンナがいいお店を知っているというので、予約してもらい、出発する。
先頭がカンナの乗る来斗の車。
次が幾夫の車。
そして、青葉の車だ。
まあ、はぐれても店の名前と場所は聞いているので大丈夫そうだったが。
それにしても、こうしていると、普通の親戚の集まりみたいだな、とあかりは思う。
青葉の事故も、記憶喪失も。
そして、それにより生じた寿々花との確執も――。
なにごとも起こらないまま、夫婦となり、家族になれた未来。
それがいきなり、自分の目の前に、ポンと現れたような気がして、あかりは、ちょっと泣きそうになった。
日向は、そんなあかりの横で、初めて乗る青葉の大きな車に、はしゃいでいる。
「あっ、うさぎだっ!
うさぎがいるよっ」
窓の外を見て、日向が叫んだ。
「そこだよ、そこっ」
と日向は言うが、こんな街中に野良うさぎがいるとも思えないのだが。
日向にしか見えない幻のうさぎがいるのか。
それとも、まだ動物園の気分が抜け切っていないのか。
そうあかりが思ったとき、青葉が言った。
「ああ、ほんとだ。
ウサギがいるな」
――!?
日向にしか見えない幻のうさぎではなく。
私にだけ見えないうさぎがいるっ!?
とあかりは思ったが、ちょうど赤信号で止まったので、さっきの地点を振り返ってみると、
なるほど。
工事中のところに立っているバリケードが、一箇所だけ、うさぎになっていた。
「あ~、うさぎ……」
とあかりは苦笑いする。
「最近、動物のやつ、よく見るよな」
と青葉が言った。
日向がファンタジーの世界にいるのかと思ったけど。
私より、よほど現実的だったな……。
そんなことを思いながら、あかりは、笑った顔のまま工事現場に並んで立っているピンクのうさぎたちを見た。
緑あふれる木々の向こうに、コンクリート打ちっぱなしの四角い建物があった。
大きなガラス窓からはウッド調の落ち着いた店内が見える。
「こういうコンクリートむきだしの建物、好きじゃないんだけど。
ここは、いい雰囲気じゃない」
と寿々花も機嫌がよかった。
まあ、日向がいるからかもしれないが。
先頭のカンナが扉を開けて入ると、黒いベストにタイトスカートの女性の店員さんが、にこやかに現れる。
「満島です」
とカンナが言うと、優雅に微笑み、
「お待ちしておりました、満島様。
八名様ですね」
と言ったあとで、その店員さんは、全員の後ろの方を見て、おや? という顔をする。
「あ、九名様ですか?」
えっ? と全員が振り向いたが、誰もいなかった。
「……霊っ!?」
と来斗が怯え、
「大吾っ!?」
と青葉が怯える。
じゃあ、一番怖いのは、『大吾さんの霊』だな、とあかりは思った。
23
あなたにおすすめの小説
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
愛してやまないこの想いを
さとう涼
恋愛
ある日、恋人でない男性から結婚を申し込まれてしまった。
「覚悟して。断られても何度でもプロポーズするよ」
その日から、わたしの毎日は甘くとろけていく。
ライティングデザイン会社勤務の平凡なOLと建設会社勤務のやり手の設計課長のあまあまなストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる