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ゼロどころか、マイナスからの出発
何故か頭に引っかかる
しおりを挟むあかりたちは広い個室に通してもらった。
ライトアップされている庭がよく見える。
食事も美味しく、みんなで和やかに話した。
来斗たちの結婚のことや、日向の話など。
日向はお子様ランチが好きなものばっかりだったので、珍しくおとなしくしていてた。
そんな日向を見ながら、あかりが語る。
「日向、ちょっと前に、水族館に行ったんですけど。
おおはしゃぎで。
天井を魚が泳いでるトンネル水槽で、上を向いて手を振りながら、叫び出したんですよ。
『おやかたー!
おやかたー!』
って。
何処に親方がっ!?
と思って天井を見たんですが。
どうも、
『おさかなー!』
って叫んでるつもりだったみたいで」
みんなが笑う。
カンナが、
「……見てみたい。
サカナやペンギンにまざって、親方が泳いでる水槽」
と呟いていた。
そこから、みんなは違う話に移っていったが、あかりの横に座っている青葉はあかりを見て言った。
「いいな。
楽しそうだな。
これからは……お前たちの歴史に俺も混ざりたいな」
いや、そんな微笑ましげに見ないでください。
照れるではないですか……とあかりは視線をそらした。
デザートとコーヒーでみんながくつろいでいる頃、青葉はお手洗いに立ち上がった。
廊下で見かけた女性客二人が奥にあるお手洗いの方を見ながら、コソコソ話しているのが見えた。
「うそっ。
よく似た人じゃないの?」
「いや、ほんとうに見たんだって、今っ。
あんな顔とスタイルの人、なかなかいないよっ」
と言ったあとで、彼女らは、こちらに気づき、
「……あ、いた」
と同時に言った。
すぐに、
「すみません」
と二人とも赤くなり、よそをむく。
そして、また小声で話はじめた。
「絶対、レイだってっ。
ここ、モデルや俳優の人もよく来るって聞いたもん」
「いやでも、レイ様、トイレになんか行かないよ」
何処のレイ様だか知らないが、トイレになんか行かないとか断定されて可哀想だな、と思ったとき、彼女らが見ていたお手洗いから、長身でハーフっぽい、繊細な美貌の男が出てきた。
「ほんとだっ。
レイだっ」
「でしょっ」
彼女らは叫んだあとで、レイに気づかれ、すみません、という感じに赤くなって俯く。
だが、彼は怒るでもなく、微笑んで何処かの個室に入っていった。
「うわーっ。
レイ様だー。
ホンモノだーっ」
「あ、じゃあ、もしかしてなんだけどっ。
駐車場で見た人、堀様だったんじゃない?
レイ様と仲いいらしいから」
「堀様って、誰?
モデル?」
「違うよ。
ミュージカル俳優だよ。
今やってるミステリードラマにも出てるじゃん」
……堀様。
ああ、あかりの好きな。
そういや、今の男と、ちょっと似た雰囲気だな。
似た職種なんだろう。
あかりの推しの堀様。
あかりとは会わせないようにしないと、と、
「せめて私には教えなさいよっ」
と母親にどつかれそうなことを青葉は、ぼんやり考えていた。
だが――
いつもなら慌てたであろう、堀貴之の出現にも、青葉はそこまでの危機感を覚えてはいなかった。
そんなことより、さっきの男、『レイ様』が気になっていたからだ。
正確には、レイが、というより。
『レイが個室の扉を開け、中に入る動作をする』という光景が何故か頭に引っかかっていた。
過去の記憶はもう封じようと思っていた。
あかりとの愛は一から育んでいけばいいからと。
だが、封印したはずの記憶の扉は、今、無理やりこじ開けられそうになっていた。
記憶の断片が頭の中でチラチラしている。
そんなもの、いっそ何処かに追いやってしまおう。
そう思っているのに……。
青葉は、今、自分がレストランの廊下ではなく。
フィンランドの道に立っている気がして落ち着かなかった。
斜め前にあかりの家の白い扉。
あそこを開け、あかりが自分を出迎えに出てくる記憶が蘇るのをずっと待っていた。
しかし――。
そんなことを考えていたとき、
「あのー」
と遠慮がちに、彼女らが話しかけてきた。
おかげで、現実に引き戻される。
ホッとしながら、つい、
「ありがとう」
と言って。
彼女らに、えっ? なにがありがとうなんですかっ? という顔をされる。
二人は手を握り合い、意を決したように話しかけてきた。
「あのっ、もしかして、あなたもモデルさんなんですかっ?」
「は?」
何故、俺がモデル……と思う青葉は、今自分が見つめていたレイが、世界的に活躍する男性モデルだとは知らなかった。
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