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プロローグ
さよなら
しおりを挟むこれで終わりだ。
さようなら――。
寝ている子どもは重いというが。
大人なら、なおのこと。
ましてや、死んでいるのか生きているのかわからない身体なら――。
埃の溜まった床に、大量の血液を使って描いた魔法陣は、慣れない作業ゆえに歪んでいた。
力の残っていない手で、倒れている男の足を掴み、その中心に引きずり込む。
なめくじの這ったような痕が残ってしまい、更に図形が崩れた。
床ではなく、埃に描かれていた部分もあって、既になんだかわからない幾何学模様のようになっている。
もうかなりの量の血を使った気がする。
その場に座り込みそうになるのを堪え、古く変色しているカーテン越しに外を見た。
強い月明かりがぼんやりと薄いそれを通して見えた。
額から埃まじりの汗が伝う。
それまでもが血に見えて、くらりときた。
足許には既に余分な血が溜まっているが、それは自分の手首から滴っているものだった。
閉める暇もなかった扉から、誰かが覗いている気がしたが、それでいいと思っていた。
足許がふらつきながらも、端に寄せていた机のところまで戻り、手をついた。
そこに、あの人から手渡されたノートがあるからだ。
結局、この悪魔の書は何処から来て、何処へ行くのか。
そんな考えがふと頭を過る。
が、今はどうでもいいことだった。
血と埃で描かれた魔法陣の中心にある身体は、どんどん冷えていっている。
急がなければ――。
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