いつか、あなたに恋をする ~終わりなき世界の鎮魂歌~

菱沼あゆ

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エピローグ3

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 なんだろう。
 夢を見ていたな。

 タクシーが着いた瞬間、利樹としきは思った。

 夢の中で、自分はいつも夕暮れの日差しの中、戦闘機を見上げている。

 その切なく胸を締め付けるものから離れたくてか、日本を離れていたが。

「間違って、学校の方に着いてしまったようだな……」

 利樹はその学園の校門を見ながら呟いた。

 すぐそこに病院は見えるのに、ぐるっと回るのはめんどくさいな。

 横切れないものだろうかと思いながら、利樹は校門をくぐってみた。

 最近は日本の学校もいろいろとうるさいらしいから、不審者かと思われて教師が飛んでくるだろうかなと思いながら。

 すると、案の定、白衣を着た茶髪の男がすぐに校舎から出てきた。

 養護教諭か、保健医のようだ。

 こちらを見て嫌な顔をする。

 自分を不審者と思ってのことかと思ったが、男は何故か、
「なるほど」
と頷いたあとで、

「真生の言うことは正しいな。
 初対面なのにゾワッと来た。

 嫌な感じだ」
といきなり失礼なことを言ってきた。

「……あなたは、この学園の養護教諭か」
と利樹が訊くと、

「いやまあ、隣の病院から派遣されてきてるだけだけど。

 あんた、もしかして、八咫理事長が病院の方に新しく来るって言ってたボストン帰りのお医者様?」
と男は訊いてくる。

 何故、自分がその医者だとわかったのだろう。

 間違って学園の方に来てしまったのに、と思いながら、ああ、と利樹が頷くと、
「そう。
 よかったね。医者になれて」
と男は不思議なことを言ったあとで、

「僕の名前は津田秋彦。
 先生、お名前は?」
と訊いてくる。

弓削利樹ゆげ としき

「弓削?」

「ああ、ちょっと名前が変わってるか。
 従弟がこの学園に居るんだが」
と言うと、津田秋彦は、なるほど、と笑ったあとで、

「……なるほど、卑怯な男だ」
と何故か斗真を罵った。

 そのとき、ちょうど、その曲が聞こえてきた。

 礼拝堂の方からのようだ。

 あの戦闘機を見たときよりも、苦しくなるような曲が聴こえてくる。

 だが、その曲は自分が思っていたような展開を見せなかった。

 突然の転調のあと、明るく静かな曲に変わる。

「間に合ってよかったね。
 あのパイプオルガンでこの曲聴けるの、最後らしいよ。

 じゃ」
と言って津田秋彦は消えたようだった。

 古い礼拝堂を見ながら、利樹はそちらに向かい、歩いていく。

 扉に鍵はかかっておらず、今にも外れそうな取っ手をつかんで開けた。

 曲は既に終わっていたが、誰も居ない客席に向かい、ひとりの少女が深く頭を下げていた。

 自分が手を叩くと、ビクリと顔を上げる。

「なかなか上手いな。ここの生徒か?

 プロの奏者じゃないよな。

 小娘、お前は何者だ?」
と言うと、夕暮れの光が似合うその少女は、ちょっとだけ泣き笑いな顔をして言った。

「真生。

 ……如月真生」
  



 礼拝堂に居た真生の前に、突然現れた高坂そっくりな男は、弓削利樹と名乗った。

 斗真の従兄らしいが、ずっとボストンに居たらしく、日本は久しぶりだと言う。

「医者になる前は、よく日本に帰ってきてたんで、ちっちゃな斗真を遊んでやってたんだ。

 遊園地で何回もゴーカートに乗るというから、捨ててくぞ、と言ったら泣いていた」

「……やめてあげてください」

 そんなしょうもない話をしながら、二人で礼拝堂の扉を開けたが、もちろん、もう過去に飛ぶことはない。

 利樹と話しながら、ゆっくりと閉まる扉を真生は振り返る。

 光降り注ぐ黄昏どきの礼拝堂の中に、もう高坂の幻は見えなかった――。





                        完



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感想 2

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みんなの感想(2件)

すずちゃん
2021.12.11 すずちゃん

完結まで書いていただきありがとうございました。
良いお話でした。一気に読みました。
ラストがもう少しと思うかこれで良いのか…その後があるのか…でも完結ありがとうございます。

2021.12.12 菱沼あゆ

ずずちゃんさん、
ありがとうございます(⌒▽⌒)

実はちょっぴりその後のお話があります。
そのうち、更新しようかなと思っています。

ありがとうございました(*^▽^*)

解除
2021.07.26 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.07.26 菱沼あゆ

godisdoraさん、
ありがとうございますっm(_ _)m💦

最近、ミステリーも笑える話の方が多いので(^^;
また、こういうお話も書きたいな~と思ってるんですけどね。

ありがとうございますっ。
頑張りますね~╰(*´︶`*)╯♡



解除

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