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エピローグ
エピローグ2
しおりを挟む地表近くに落ちた大きな夕陽が満遍なく街を赤く染めていた。
真生は許可を貰い、ひとり、あの礼拝堂に居た。
パイプオルガンの椅子を引き、座る。
パイプオルガンは変わらないが、椅子はあの頃とは変わっていた。
静かに真生はあの曲を奏で始める。
結局、あのノートは消えた。
何処から来て、何処に行くのかわからないあのノートは。
でも、何処から始まり、何処で終わるのかわからない私の恋は、今もこの胸に残っている。
私を見つめるあなたを見て、私はあなたに恋をした。
そして、あなたに恋をした私が過去へと飛んで、あなたは私に恋をした。
この恋を始めたのが、どちらなのかわからなくとも。
私はただ、高坂さんが好きだった――。
最後の一音を弾き、真生は目を閉じた。
誰も居ないベンチに高坂が座り、手を叩いている幻を見る。
立ち上がった真生はひとり、その幻に向かい、頭を下げた。
あの日――。
高坂は途中で引っかかるあのレコードをかけていた。
「来てもらおうか、高坂」
日本は再び、泥沼のような戦争に向かおうとしていた。
いつまでも見つからない病原体に業を煮やした軍は強硬手段に出ようとしていた。
だが、軍があそこまで、あの病原体にこだわるのも、ここに生きた抗体が居るからだ。
なにかあっても、自分たちは助かると信じているから。
窓の外、夕陽の中を飛行訓練中の戦闘機が三機、飛んでいるのが見えた。
高坂は、それを見ながら笑い、呟いた。
「これで終わりだ。
さようなら――」
真生が愛したガス燈が見える。
あの曲が流れていた。
あそこから先へは進めない、あの曲が。
だが、いつか、真生が未来でそれを奏でるだろう。
「わかった。
病原体の在り処は大体わかっている」
と言いながら、高坂は棚に近づいた。
真生――。
お前が産まれてくる未来にあんなものを残したくないし。
お前の存在する世界に不安を残したくはない。
もしかしたら、未来では、あんな病原体、たいした脅威ではないのかもしれないが。
そんなものをバラまいて得た勝利の上に成り立つ未来にお前を存在させたくない。
俺のつまらぬ感傷かもしれないが。
真生……。
高坂は棚に飾っていたくるみ割り人形のレコードの陰にある小瓶を取るふりをして、用意していた爆弾のスイッチを入れた。
真生、
これで終わりだ。
さようなら――。
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