68 / 70
エピローグ
エピローグ1
しおりを挟む「起きろ、真生っ」
シャッとベッドの周りのカーテンが開けられ、真生は目をしばたたいた。
夕暮れの日差しが保健室に満ちている。
どうやら、放課後のようだった。
「いつまで寝てんだ」
と八咫の病院から派遣されて来ている保健医に怒られる。
「いや~、なんだか昏々と眠っちゃって。
この間、創立記念祭が終わって、これで全部終わった気がしたからですかね」
そう言うと、
「……あのとき、もう全部終わってたろうが」
と茶髪に白衣の彼は、夕陽の差し込む窓際の椅子に腰掛けながら、そう言う。
この茶髪をうるさい女教師にいろいろと言われていたが、
「地毛です」
と答えていた。
いや、本当だ。
そのことは、自分も八咫理事長もよく知っている。
っていうか、いつの間にか、その女教師も丸め込んで、自分のファンにしてるし、と思いながら夕陽を浴びたその白い綺麗な顔を眺めていると、彼は言った。
「俺は病院に戻る。
もう保健室は閉めるから、帰れ」
「ほんっと優しくないですね、秋彦先生」
と言ったあとで、真生は、
「今日で最後なんです」
と言う。
ん? と秋彦はこちらを見た。
「パイプオルガン、そろそろ部品の交換が必要らしくて。
あれ弾けるの、今日で最後なんです」
そうか、と秋彦は言った。
じゃあ、と戸口で振り返り笑うと、
「ありがとう」
ふいに秋彦は、そんなことを言ってくる。
「なんですか、それ。
気持ち悪い」
と苦笑したのだが、彼はいつもとは違う顔で、
「お前が俺を解放してくれた」
そう言った。
なにからというのは、秋彦は言わなかった。
言えないのだろう。
母親に申し訳なくて。
だが、言えないうちは、まだ囚われているのだと思う。
母親からの呪縛に。
秋彦は窓の外を見ていた。
日が落ちて来たので、まだ明るいが、もう外灯の明かりがついていた。
真生もまた、それを見ながら、あの暖かいガス燈の明かりを思い出していた。
廊下に出ると、可愛らしい男の足首を……お前に殺された、と言いながら、這う男の霊が掴んでいるのが見えた。
だいぶ迷走してるな、と真生は思う。
なにかの気配を感じたらしい男子生徒は悲鳴を上げて、逃げていく。
「もう成仏したら?」
真生が残された霊にそう話しかけると、霊は、ちら、とこちらを見上げたが、特に興味もないように、そのまま這って行ってしまう。
……最早、ただ、そうしているのが好きなだけなのかもしれないな、と思い、見送った。
「真生は? 一緒に帰らないの?」
斗真は帰り道、夏海に訊かれた。
真生はまた、津田秋彦のところに居るのだろう、と思う。
真生は自分がここに連れて来た以上、責任があると思っているようで、ずっと秋彦を見張っている。
というか、秋彦と話しているときは、あの時代の空気に触れられるので、彼の側に居るのを好んでいるというか。
……っていうか、いいのか、あいつ。
確かに医師免許は持ってるし、死んでないから無効ではないが。
全く年齢が合っていないのだが。
まあ、八咫理事長がついているから大丈夫なのだろうが。
やがて、夏海とも別れ、斗真はひとり、家へと向かう。
真生は自分に高坂を重ねて見ることはないようだった。
残念ながら、似過ぎているが故に、よりわかるようだった。
自分が高坂の生まれ変わりではないことが。
もっと似ていなかったら、顔のせいでそう見えるのかなとも思えただろうに。
そう。
自分は高坂の生まれ変わりではない。
前世の記憶もなく、死んだときのトラウマもない。
そして、遠からず、真生にもそのことがハッキリわかってしまうことだろう。
でも、俺からは教えない、と斗真は思う。
「だって、あのとき言ったろ? 真生。
俺は卑怯者だから――」
斗真はそう呟き、今は戦闘機の影もない、夕暮れの空を見上げた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
