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數葉の蔵
私は何処へ連れさられてるんですか
しおりを挟む校門まで出ると、何処からともなく大きな車がやってきた。
七月は後部座席に言われるがまま一緒に乗り込む。
運転手は若い男だった。
運転手……、普段着だな、と思っていると、その男が振り向き笑う。
「へえー、これが槻田の彼女?
犯罪じゃん」
市長と同じ年くらいのようだが、口調が軽い。
いや、この年頃だとこんなものか。
高岡と槻田が落ち着き過ぎているだけだ。
「あいつが選挙に出ようとしたら、追い落とす材料が出来たな」
と高岡が言う。
「いや……先生、選挙には出ませんから。
ところで、この方は?」
と運転席の男を手で示して問うと、
「高校からの友人だ」
と言う。
「橋本史郎《はしもと しろう》です」
と人懐こい笑顔を向けてくる。
いや、前見て運転してください……と思いながら、
「お友達なんですか。
運転手さんかと思いました」
と言うと、
「運転手だよ。
ちょうど、前の会社が倒産して困ってたら、こいつが雇ってくれたの。
ああ、今は仕事中じゃないけど」
と言う。
市長をこいつとか言う運転手、いいのだろうか。
「別に自分で運転してもいいんだが」
と溜息をつきながら言う高岡に、
「事故でも起こしたら大変じゃん」
と言い終わらないうちに、おおっとっ! と言う。
飛び出してきた猫でも避けたのか、車が蛇行する。
七月は思わず、高岡の腕とドアを掴んで、体勢を保っていた。
あ、すみません、と、こちらを見下ろす高岡を見上げながら、手を離し、ちょっと不安そうな顔をすると、案の定、
「そう。
こいつの運転は上手くない。
俺が運転したいくらいだ」
と言い出す。
なにかこう、運転手を雇っている意味が見出せない気がするのだが、気のせいだろうか。
「そういえば、高校のとき、自転車のハンドル操作誤って、道から川原に落ちたことあったよなー」
とあっけらかんと言ってくる。
「俺が左側に居たお前を巻き添えにして落ちて。
……それを槻田があの目で見下ろしてやがった」
と舌打ちして言う。
なんだか目に浮かぶようだ……。
「友達なら一緒に落ちろってんだよ。
なあ?」
と高岡に言っているが、高岡は無言だ。
橋本と槻田は友達なのかもしれないが。
この高岡は、そもそも槻田を友達だと思っていないような気がした。
いや、でも、とりあえず、見下ろしてたってことは、自転車は止めて見守ってたってことですよね?
と思ったのだが、余計なフォローは火に油のような気がしたので、黙っていた。
代わりに、
「ところで、私は何処へ連れさられてるんですか」
と問うてみる。
「市長公舎だ」
と短く高岡は言った。
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