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第一章 オフィスの罠
政略結婚は嫌だな
しおりを挟む「社長夫人になってみるか、未咲」
そう智久に冗談めかして言われ、
「課長の奥さんで充分です」
と未咲は答える。
「ほんとにあいつと結婚する気か?」
「今のままなら、押し流されて、そうなりそうです。
専務、もしかして、花嫁の父の心境ですか」
「だから、何故、俺を年寄り扱いする。
夏目とそう年は変わらないぞ」
「だって、ずっと私の面倒見てくれてたじゃないですか」
「金を与えただけだ。
お前は勝手に生きている。
縁日でとった金魚より手がかからなかったぞ」
と大真面目に智久が言うので、笑ってしまった。
「専務も子供の頃は縁日とか言ってたんですね」
「だから、家で専務はやめろ。
職場みたいで、どっと疲れるから」
「あら、そうなんですか。
仕事と職場が好きだから、泊まり込みたいくらいかと思ってました」
「他に趣味がないだけだ」
「専務は……あ、すみません。
でも、職場でうっかり、智久さんとか言ったら、さ……」
桜さんに殺されます、と言いかけて、言葉を呑み込む。
勝手に桜の想いをしゃべっては、桜に悪いと思ったからだ。
「……佐々木さんに殴られますから」
「そういうとき、佐々木は、お前との間になにかあるのかな、と思って、黙殺する」
ま、よく出来た人ですからね、と思って聞いていた。
「呼び間違えないように、家でも、専務って言ってるんですよ。
でも、じゃあ、智久さん。
智久さんは、結婚しないんですか?」
「鬱陶しいからな」
切って捨てるように言う智久に、はあ、と答える。
「一人が楽なんだ。
社会的な信用を得るためには、結婚した方がいいのはわかっているんだが」
「見合いの話とかいっぱいあるでしょうに」
「政略結婚は嫌だな。
妻の実家の力を借りたりすると、頭が上がらなくなって面倒くさいから。
俺は俺の力でのし上がる」
「ご立派なご意見ですが。
考えようによつては、いろいろと、うるさい人ですねえ」
「そうだろう。
だから、ひとりでいる方がいいんだ。
お前がたまに、酒の相手でもしてくれたらいい」
「なんだか、芸者さんか花魁になったような気がしてきました」
「あれだけ金かけてやって、指一本も触らせないのにか」
「智久さんが触ってこないんじゃないですか」
「じゃ、触っていいのか」
「いいわけないじゃないですか」
なんなんだお前は、という目で見られる。
「俺は夏目ほど手が早くないからな」
「課長も別に……」
と言いかけたが、
「お前には結構ぐいぐい押してきてるじゃないか」
と智久は言ってくる。
「そうなんですけど。
なにか考えがあって、そうしてるのかもしれないあと思って」
「お前の考え方は面白くないな」
とあの智久にまで言われてしまった。
「しかし、厄介なものを拾ったと思っていたが、手放すとなると、ちょっと惜しいな」
「いや、智久さんは、意外に面倒見がいいからですね。
また誰か困ってる人を助けてあげてください」
と言うと、どんな慈善事業だ、と言われる。
腰を深く落とした智久は、いきなり未咲の膝に頭を乗せてきた。
「どうしたんですか?
疲れてるんですか?」
「俺だって疲れるよ」
と腕を組んで、天井を見ながら智久は言う。
「美人の奥さんでももらって、慰めてもらってください」
「美人をもらうと寿命が縮むと言うじゃないか。
浮気をするか心配で、というが、ほんとのところ、態度がでかくて、振り回されるからじゃないのか」
と言い出す。
「じゃ、不細工な人を花嫁として、募集してください」
殺到しづらいだろうな、と思った。
秘書課の女たちなど、プライドが高いから。
「未咲」
「はい」
「キスでもしてみるか」
「嫌です」
「俺としてみれば、夏目に対する気持ちがどんなものかわかるかもしれないぞ。
お前、他と比較してみられないだろう」
いや、そうなんですけどね。
それを理由にわざわざしてみるのもどうかと。
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