あやかし吉原 弐 ~隠し神~

菱沼あゆ

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隠し神

やはり、現れたか

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 那津たちが西河岸に向かって行くのに、左右に引手茶屋が並ぶ仲之町なかのちょうを曲がろうとしたとき、向こうから咲夜が歩いてきた。

 店に居るときとは違う、町娘のような出立ちだ。

「咲夜、なにしに出てきた……」
と那津が言うと、

「いやいや、外の湯屋に行こうかなと思って」
としれっと咲夜は言うが。

 また事件に首を突っ込もうとしているに違いない。

「昨日のご隠居さんはどうした?」

「家で寝る方がいいとか言って、朝を待たずにお帰りになったわ。
 まあ、あの年になると、慣れた枕が一番よね」

 いや、旅行か……と那津が思ったそのとき、咲夜がボソリと言った。

「……私のところに来るのは、そういうお客さまが多いのよ。

 ただ評判の明野を眺めに来ただけだからとか帰るとか。

 急に火の元が気になったから帰るとか」

 いや、お前のところに来る客なんて、家に使用人がいっぱいいるだろうに、なんで急に火の元が気になるんだと思ったが。

 その理由はわかる気がして。

 那津は黙って、咲夜の後ろを見た。

 だが、此処でそのことを追求したくないので、
「まあ、江戸で火事を出すと大ごとだからな」
と言って話を締めた。

 まあ、そんな感じで客の相手をする時間も少ないので、咲夜は暇を持て余しているのだろう。

 しかし、可哀想だが、連れては行くわけには行かない。

「お前を連れてくと左衛門に怒られる」
と那津は咲夜に言った。

「あとで報告に行くから、帰って待ってろ」
と言うと、はあい、と渋々、引き上げていく。

 ほんとうに戻るか気になって見張っていると、咲夜は扇花屋から出てきた桂に腕を引っ張られ、連れ戻されていた。

「あっ、明野姉さん、こんなところにっ。
 みなさん、お探しですよっ」

 ……やっぱりな、と思いながら、ようやく那津たちは西河岸に迎う。

 実助は、扇花屋から出てくるのだから、此処で待っていてもいいようなものだが。

 湯屋の近くで、たまたま出会ったので、話を持ちかけたという形にしたい。

 そう那津は思っていた。


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