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限りなく怪しい客
雨宮に気があるとか、そういうわけではないんだが……
しおりを挟む今日は、雨宮のところに行けなかったな。
そんなことを考えながら、将生は仕事帰り、深夜のコンビニに寄っていた。
すると、見覚えのある男が、サンドイッチの棚を見ている。
声をかけるべきかどうか迷っていると、相手が振り向き、言ってきた。
「こんばんは。
監察医の先生ですよね」
刹那だった。
「夜食か?」
とサンドイッチの棚を見ていた刹那に将生が言うと、刹那は、
「珈琲と一緒になにか、と思いまして。
好きなんですよねー。
コンビニの珈琲」
そう言ったあとで、ああ、という顔をし、
「雨宮さんのところの珈琲も好きですよ。
なんだか、毎度味が違ってて面白いですよね」
と笑う。
……すまん、と何故だか謝りそうになる。
いや、自分の店ではないのだが、気に入って通っている常連のひとりとして、なんとなく……。
頻繁に味が変わるのは、喜三郎さんとか、毎度、違う人が淹れているからというより、琳の淹れ方が雑だからだろう。
安達刹那は、基本、雨宮が居ないときには来ないようだし、と思ったあとで、彼が琳が居ないときには来ない、その意味を将生が考えていると、
「面白い人ですよね」
となにを思い出したのか、笑いながら、刹那は言ってきた。
「雨宮さん」
まあ、雨宮は、まごうことなき面白い人だが、お前も結構面白いぞ、と将生は思う。
刹那はカツサンドを棚から取っていた。
この時間にかっ? と思いながら見ていると、彼が最近、近くの電気店で配っていたエコバッグを持っているのに気がついた。
「偉いな。
スーパーはともかく、コンビニはふいに寄ることが多いから、忘れがちなんだが」
「ああ、ビニール袋増えるの嫌なんで、エコバッグ取りに帰ってでも増やさないようにしてるんです。
あとで捨てればいいんですけど。
なんだかもったいない気がして。
うちの実家とかは、畑で採れた野菜入れて、近所に配ってますけどね。
こっちじゃ、そんなことすることもないので」
わかるわかる、と頷いているうちに、
「じゃあ」
と言って行ってしまった。
刹那はレジで会計を済ませたあと、こちらを振り返り、ぺこりと頭を下げてきた。
将生も下げ返す。
暗い夜道を歩いていく刹那をガラス越しに見ながら、なんか……悪くないな、と将生は思っていた。
ちょっと寂しくなりがちな、ひとり訪れた深夜のコンビニで、なんとなく知り合いな人間と、なんとなく出会って、なんとなく話す。
悪くない。
そう。
悪くないんだが……。
安達刹那の人となりも嫌いじゃないし――。
ただ、あいつが雨宮に気がありそうなことだけが引っかかる、と将生は思っていた。
何処がいいんだろうな、あの変人の。
いやいや、俺が雨宮に気があるとか。
そういうわけではないんだが……。
誰に語っているわけでもないのに、自分の心の声を自分で否定しながら、将生は新商品のカップ麺を手にした。
雨宮に二、三個買ってやろう。
この間、ご馳走になってしまったからな、と思いながら。
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