ここは猫町3番地の2 ~限りなく怪しい客~

菱沼あゆ

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限りなく怪しい客

衝撃を受けた理由、違います

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 土曜日、龍哉は、琳の店のカウンターでジュースを飲んでいた。

 父親と此処で待ち合わせして、お昼を食べに行くことになっていたからだ。

 父さんにしては気が利いている。

 待ち合わせ場所が、と思っていると、将生が現れた。

「雨宮、プレゼントだ」

 花とか?

 いや、アクセサリーか?

 やはり、大人の男は違うな、と龍哉は身構えたが、将生は白いビニール袋をカウンターに置く。

 見覚えのあるコンビニの袋だ。

「あっ、袋、助かりますーっ。
 今、切らしちゃってて」
と琳が笑うと、

「……いや、中身を見ろ」
と将生は言う。

 琳は、ははは、と苦笑いし、中から新商品のカップ麺を数個取り出していた。

「なんかすみません。
 また一緒に食べましょうね」
と琳が笑いかけると、将生は嬉しそうな顔をしたあとで、すぐに自分がそれを表情に出したことに気づき、渋い顔をする。

 ……素直じゃないな、大人って。

 いや、俺もだが、と思ったあとで、龍哉は思う。

 しかし、この二人、一緒にカップ麺食べたのか?
 どういう状況で?

 ……別に、うらましいとかじゃないんだが、と思いながら、広げていた歴史の本に視線を落とすと、先程からの視線に気づいていたらしい琳が、

「あ、食べたい?
 一個あげようか?」
と言ってきた。

 いきなり、カップ麺を開けようとする。

「いいのか?
 もう昼だぞ」
と将生が口を挟んできた。

「勝手に食べさせたりして、お昼ご飯食べられなかったとかって、親に怒られないか?」

 ああ、そうだ。
 ごめんごめん、と琳は開けかけた手を止め、笑う。

「お母さんたちお出かけだから、これからお父さんと二人でご飯食べに行くんだったよね?

 じゃ、今度一緒に食べようねー」
と言いながら、ビニール袋にカップ麺を戻す琳に、将生が言っていた。

「お前はビニール袋、いる人なんだな」

「え?」

「いや、この間の夜、安達刹那にコンビニで会ったんだ」
と言って、将生がそのときの話を始めると、琳は微妙な顔をする。

「なにかこう……
 よくないことが進行してる気がしますよ」

 小洒落たカフェにふさわしくないカップ麺の入った袋を見ながら、琳はそう呟いていた。
 


 安達刹那はいつの間にか、店の常連の人たちと馴染んでいった。

 そんなに口数は多い方ではないが。

 おばあちゃんたちと何処のお惣菜が安くて美味しいかについて語り合い。

 おじいちゃんたちや龍哉の父と渓流釣りについて語り合い。
 
 将生たちとなんだかわからない話をしていた。

 いや、なんだかわからない、というのは、私がついていけない話だからなんだが、と思いながら、琳は今日もコーヒーサイフォンがこぽこぽ言う音を聞きながら、カウンターで話している将生、佐久間、刹那の話を聞いていた。

 シンナーがどうとか言っているので、なんのヤバイ話だと思っていたら、プラモデルの塗装の話だったようだ。

 このまま何事も起こらないといいんだが、と願っていたが。

 おそらく、なにかの事件が起こるだろうことも琳にはわかっていた。

 刹那が日々、此処に通いながら、少しずつ、自分の情報を琳に流してくるからだ。

 やれやれ、困ったな、と思う琳は、カウンターで話している三人をじっと見つめている人物に気がついた。

 怪しい小柴だ。

 いや、小柴が怪しいわけではないのだが。

 小柴の奥さんが怪しい。

 本当に実在しているのか?

 いや、新田から小柴になったと言っているのだから。

 居る、あるいは、過去、居た、ことは確かなのだが、と思いながら、なんだか気になり、客に珈琲を出したあと、琳は小柴の許へと行った。

「小柴さん、珈琲おかわりいかがですか?

 サービスです。
 うっかり多めに作ってしまったので」

 小柴のカップがちょうどカラになっていたのを見ていたからだ。

「そう。
 悪いね、じゃあ、もらおうか」
と小柴は言ってくる。

 サイフォンを持って、小柴のところに行った琳は、
「なんでずっとあっち見てるんです?」
とチラとカウンターの方を見ながら訊いてみた。

 話があってきたとわかっているようだった。

「いやあ、うちの奥さんがさ。
 知ってるって言うんだよ、『安達刹那』って子を」
と小柴は言い出した。

 うちの奥さん!

 琳が衝撃を受けた顔をしたのを、小柴は、刹那を知っていると言ったせいだと思ったようだったが、違う。

 再び、小柴の口から、謎の妻の話が語られたからだった。


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