ここは猫町3番地の2 ~限りなく怪しい客~

菱沼あゆ

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限りなく怪しい客

やだなあ、監察医って

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 小柴も刹那も佐久間も帰ったあと、琳が片付けていると、ひとり残っていた将生が言ってきた。

「どうした。
 機嫌がいいな」

「いえ、小柴さんの奥様が実在の人物だとわかって、ホッとしたので」
と笑うと、

「安達刹那が言ってた話か?
 でも、あいつ、小柴の奥さんのこと、全部過去形で語ってたぞ。

 まあ、卒業生で、最近会ってないからだとは思うが」
と将生が言ってくる。

「どうして、せっかく決着がついたものをひっくり返そうとするんです……」

 琳は恨みがましく将生を見た。

「いや、そういう見方もできるぞと言っただけだ」

「やだなあ。
 監察医って。

 なんでもかんでも疑ってかかって……」

「なんでもかんでも疑ってかかってるのはお前だ。
 ミステリーマニアめ。

 客から、犯人を出したくないから、突っ込んで調べたくないとか言いながら、安達刹那を警戒してるだろ。

 一体、なにが気になってるんだ?」

 そう問われ、琳が口を開こうとしたとき、
「関係ないとは思うんですけどね」
といきなり声がした。

 ひっ、と琳たちは固まる。

 音もなく、小柴が戻ってきていたからだ。

 安達さんと話しながら帰ったはずなのにっ、と琳が思っていると、
「いやいや。
 話しながら、彼のアパートまで行ってきましたよ」
と小柴は言う。

 琳が、
「ああ、海岸沿いの。
 此処から近いですよね」
と言うと、将生が何故かこちらを睨むように見、

「お前も行ったのか?」
と訊いてきた。

「いやいや。
 行ってはないですけど。

 あれが僕のアパートです、とたまに会うスーパーの近くで指さされて、見ただけです」
と琳は弁解する。

 何故、宝生さんに弁解しなければならないのか知らないが……、と思いながら。

 小柴が将生の隣の椅子を引いて腰掛ける。

「実はね、ひとつ、気になってることがあったんですよ。

 昨年、妻と同じ大学で助手をやっていた女性がひとり、自殺してるんですが。

 その人と安達くんが仲良かったから、妻も彼を覚えていたそうなんです。

 僕も、その自殺した女性、神原七重かんばら ななえさんに、一、二回会ったことあるんですけど。

 いやあ、とても綺麗な人でしたね」
と小柴は言う。

「神原さんの自殺の理由。
 男に騙されたからだったそうです。

 相手は、同じ大学の准教授の里中っていう男です。

 僕も会ったことあるんですけど。
 なかなかのいい男でね。

 でも、奥さんが居るんですよ。

 ま、よくある話で、妻とは別れるから、と言われて、付き合って。

 確かに、奥さんとは別居してくれたけど。

 実は、他にも女が居ました、みたいな感じで、騙されたみたいなんです、神原さん。

 そして、神原さんは自殺し、神原さんと非常に仲の良かった安達刹那くんは、仕事を辞めて、此処に越してきました。

 里中の自宅のあるこの街に」

「その話、誰から聞きました?」
と琳は小柴に訊いた。

「安達刹那くんです」

「僕、殺人事件の犯人になります、と宣言しているような男だな」
と将生が言う。

「……そうですね。
 最初から、そう宣言してるようなものですからね」

 そう琳は呟く。

 琳は毒草も咲き乱れる美しい庭園を見た。

 今日も金次郎さんが夕日に照らされ、眩しいな、と思いながら――。

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