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限りなく怪しい客
どうすんだ、これ……
しおりを挟む「安達刹那さんの敵、里中さんは、木曜日は女性と遊ばずに家に居るらしいです」
とある日、佐久間が言った。
「安達刹那の敵、里中は、神原七重が死んでも、全然懲りてないらしいぞ」
とある日、将生が言った。
「確実に相手を殺そうとするなら、やっぱり、毒より、物理的な攻撃の方がいいんですかね?
あ、二時間サスペンスの話ですよ」
とある日、まだ居る金次郎さんを見ながら、刹那が言った。
「はあ、まあ……その方が確実ですかね」
琳はお盆を手に刹那の横に立って呟く。
いつの間にか、店の常連全員が知っていた。
近いうちに。
木曜夜八時ごろ。
安達刹那は里中を殺しに行くと。
「絞殺にしたみたいだよ、琳ちゃん」
ひそひそと常連のおばあちゃんたちが言ってくる。
「この間ホームセンターで、安達さんがロープを見てるのをひさちゃんが見たらしいよ」
うんうん、とひさちゃんと呼ばれているおばあちゃんが横で頷く。
「どうするかねえ」
「そうだねえ。
この店で見られる色男が減るのは嫌だわねえ」
「あら、あんた、笙ちゃんと安達さん似てるって言ってたじゃないの。
笙ちゃんの顔でも眺めてなさいよ」
という、かなりしょうもない話に突入したので、琳はその場を離れた。
安達さんの計画を知っていても、おばあちゃんたちには、あまり現実感がないようだな。
まあ、実際に、事件に遭遇することなんて、そうないもんな、と思いながら。
「どうすんだ、これ、雨宮」
カウンターで、将生が渋い顔で言い、
「僕も知ってますからね。
まだなにもしてないので、どうにもできませんけど」
と佐久間も困り顔で言う。
「里中に誰かが狙ってるって警告すべきでしょうか。
安達くんの名を出さずに。
僕、彼に犯罪者になって欲しくはないです。
まだ、一緒に工場見学行ってませんし」
いや、なんの同好の士になってるんですか、佐久間さん、と思いながら、琳は言った。
「いえ、たぶん、知ってますよ、里中は。
安達刹那さんに命を狙われていることを。
だからですよ」
そこまでまた沈黙した琳に、将生が呼びかけてくる。
「雨宮……?」
いや、すみません、と琳は謝る。
「ちょっと考えてたんですよ。
『何処まで』彼の計画に乗ってあげようかなって――」
夕暮れどき、琳の店のある通りを歩いていた刹那は、店の庭にある毒草ではなく、二宮金次郎を眺めた。
今日も金次郎さんは、ただ黙々と本を読んでいる。
勤勉な人だな……と思ったとき、
「ねえ」
と前から声がした。
振り向くと、目の前に色白で端正な顔をした少年が立っている。
「龍哉くん」
と足を止めると、龍哉は子どもらしくない目で自分を見上げ、
「貴方がなに考えてんのか知らないけどさ。
琳さんには迷惑かけないでね」
と言ってくる。
「僕にとっての琳さんは――
たぶん……、貴方にとっての神原七重さんなんだから」
そう付け加えて。
「……わかってるよ」
そう言った刹那は、つい、いつもは撫でない龍哉の頭を撫でてしまった。
なんだか龍哉が昔の自分のように思えてしまったからだ。
だが、案の定、赤くなった龍哉に、
「やめろよっ」
と払われてしまう。
「ともかく、警察には捕まらないでっ。
さ来週までは絶対だよっ。
父さん、あんたとみんなと渓流釣りに行くの楽しみにしてるんだから!」
その先はいいのか……?
と思ったが、そういう風にしか言えない少年なんだろうというのもよくわかっていた。
自分もそうだったからだ。
じゃあね、と去っていく龍哉を見送りながら、少し笑って、刹那は呟いた。
「もう少し簡単に行くと思ってたんだけどね」
行きかけて、金次郎さんを振り返る――。
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