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二十四時間、タダ働き

あなたの金銭感覚はどうなってるんですか……?

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「そうだ。
 お前の居る支社、他の支社と合併するんだってな」

 ふいにそう言われ、芽以は、ぎくりとする。

 何故知っている……と思ったからだ。

 実は、このまま会社に残っていたら、他県に転勤になってしまうので、悩んでいたのだ。

 固まっている芽以に向かい、逸人は、
「早期退職、優遇されるんだろ。

 嫁はいい。
 とりあえず、来い」
と言ってきた。

 ん? と思う。

「……あのー。
 もしや、結婚うんぬんの話ではなく、とりあえず、一緒に働いてくれる店員さんが欲しいとか?」
と言うと、逸人は黙った。

 幾らこの人が有能でも、ひとりで、このサイズの店は回せまい。

 そして、この性格。

 店員を雇うと言っても、なかなか合う人を探すのは難しいだろうと思われた。

 その点、自分なら、気心が知れている。

 少々暴君にふるまっても、はいはい、とこちらがきくこともわかっているだろうし。

 なるほど、そういうことか、と芽以が勝手に解釈していると、逸人は、
「とりあえず、結婚するまでは、住み込み店員として、お前を雇おう」
と言い出した。

「店員になるのなら、お前にも金を払わねばならんな。
 こういう店の店員の月収って幾らくらいなんだろうな」
と壁に貼られた素敵な外国の風景写真のついたカレンダーを見ながら、逸人は言った。

「住み込みだと、百万くらいか?」

 ……店の経営の前に、貴方の金銭感覚は大丈夫ですか?

 仕事の金の計算は出来ていたはずなのに、何故だ……と思っていると、

「だって、住み込んでもらうんだから、普通より高いんだろう?」
と言ってくる。

「いや~、家賃がいらないんだから、安くていいんじゃないですかね?」
と言うと、

「二十四時間、働かされるのにか?」
と逸人は真顔で言ってくる。

「……二十四時間、働かせるつもりだったんですか?」

 そう芽以は訊き返した。

 っていうか、今、結婚するまでは給金を払おうって言いました?

 じゃあ、結婚したら、無給?

 無給で無休?

 いや、よく考えたら、夫婦だから、給与が出なくても、特に問題はなかったのだが。

 二十四時間、タダで働かされるっ。

 しかも、この、ひとつのミスも許さなさそうな人の下でっ、というのがインパクトが強く、芽以は思わず、

「じゃあ、結婚しませんっ」
と言ってしまっていた。



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