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第一章 鵺の鳴く夜
ひとつめのスイーツ、完成しましたっ
しおりを挟む次の日の昼ごろ。
吉房と是頼と、晴明と青龍という名の少年が鷹子の許に現れた。
……何故、こんなにいっぱい、と思う鷹子に吉房が言う。
「鷹子よ。
あの牛の乳でなにを作ったのだ」
「作ったというか。
まあ、できそうかな~という感じなんですが。
……困りましたね。
あの量では、全員味見できるほどはないように思うんですが」
と呟いたあとで、鷹子は女房たちに命じた。
「温めたあと放置していた牛の乳を持ってきて」
はい、と女房たちがあの壺を持ってくる。
「加熱して殺菌したあと、一日置いた牛の乳です。
この分離した上の部分が、カイマクです」
「カイマク?」
「中央アジアの遊牧民族の方々などが作っているカイマクというものです。
牛乳の乳脂肪分ですね。
つまり、生クリームです。
……と地理の先生が言ってました」
生クリームというか。
生クリームのようなものというか。
バターっぽくもあり、クロテッドクリームのようでもあり。
「ちょっと牛乳と混ぜたくらいがいいかもしれませんね。
命婦」
と鷹子が合図すると、命婦が揚げたての唐菓子を持ってきた。
小麦粉を練って油で揚げてもらったのだ。
そのとき、ちょうど若いふたりの女房が庭先に現れた。
手にはザルを持っている。
「女御様、お持ちしましたっ」
ザルの中には可愛らしいぷちぷちした赤い粒の野苺がたくさんあった。
これこれ。
小学校の裏山で、先生に隠れてよく食べてたな~、と思いながら、鷹子は井戸水で洗ってもらったそれを指でつまむ。
「三角に揚げてもらった唐菓子に、この生クリームっぽいものをのせて、野苺を飾ると」
鷹子は銀の平皿の上に唐菓子を置いてもらい、白いカイマクをかけてもらった。
その上に、おままごとでお料理するときのように野苺をちょん、ちょん、ちょんっと置く。
おお、と男たちも女房たちもその銀皿を覗き込んだ。
「なんと可愛らしい菓子ではないかっ」
と吉房が声を上げる。
「食べられるのか? これは」
「はい。
甘くはないですけどね」
なんとなくケーキというか。
雰囲気だけケーキというか。
下の唐菓子が硬いので、どっちかといえば、タルトっぽいかもしれない。
「牛乳がこの量だとカイマクがあまり取れないので、ほんのちょっぴりしか作れませんけど」
と鷹子は苦笑いした。
銀皿の上のケーキっぽいものは、きっと食べても美味しくはないのだろうが。
この世界で、こんなものが見られたことに、鷹子は感動していた。
前の世界を思い出し、ちょっと涙ぐんでしまう。
それを見た吉房が、
「わかった。
此処に大量の牛の乳を運ばせようっ」
と言い出した。
いや、それは結構です。
カイマクとったあとの残り、どうするんですか。
ちょっと作ってみたかっただけなんですよ。
ちなみに、このカイマク。
鷹子の時代に普通に売っている牛乳ではできない。
分離しないよう乳脂肪分を細かくする、ホモジナイズという加工がなされているからだ。
そして、そんな風に調整されていないノンホモ牛乳と言われるものは高い。
大量のノンホモ牛乳から生クリーム作っていいだなんて贅沢な話だな、と思いながら、鷹子は野苺のタルトっぽいものがのった銀の平皿に銀の匙を置いてみた。
銀のフォークが欲しいところだが、この時代には、金属の匙はあってもフォークはないのだ。
「よし、女御。
それを持ってついて参れ」
突然、吉房がそう言い出した。
え? と鷹子は顔を上げる。
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