あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~

菱沼あゆ

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第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい

とんでもないところから手に入りました

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 鷹子たちは居室に戻り、女房たちは鞠を転がして遊んでいた。

 少し元気になった吉房が、もう少しアイスを食べたいと言ったので、別の場所から氷を運ばせ、新しいアイスを作ることにしたのだ。

 楽しげな女房たちをぼんやり見ている鷹子に命婦が言う。

「中宮様にはお会いできましたか?
 お綺麗な方でしたか?

 まあ、斎王女御様の方がお綺麗でしょうけどね」

 うちの子が一番可愛いみたいな口調が微笑ましく笑ってしまう。

「お綺麗でしたよ、中宮様」

 だが、その冴えない口調に命婦は不安そうな顔をする。

「晴明」
と鷹子は几帳の向こうに居る晴明に呼びかけた。

「左大臣様が非時香菓ときじくのかぐのこのみにこだわる理由は、やはり、中宮様だったのですね」

 晴明はなにも答えなかったが。

 彼の立場からはなにも言えないので、答えないということは肯定したということなのだろう。

 吉房に、左大臣は何故、非時香菓ときじくのかぐのこのみにこだわるのは何故かと問うたら、視線を逸らし、

「知らぬわ。
 不老不死にでもなりたいのであろう」
と言っていた。

 だから、吉房もほんとうはなにもかも知っているのだろう。

 なんだかんだで帝はやさしいという寿子の言葉を思い出していた。

 いや、ほんとうに、と思ったとき、

「さ、左大臣様がお見えですっ」
と慌てたように女房が言ってきた。

 ええーっ?
 こんな時間になにをしにっ、と思い、晴明を見ると、

「では私は控えておきましょう」
と庭に降りた。

 なにが起こるのかとちょっと楽しみにしている風でもあった。


 やってきた左大臣、実守は部下に持たせたあるものを鷹子に渡してきた。

 それは大きな器に植えられた植物だった。

 まだ固いつぼみが幾つかついているが、その花は紫がかった青色をしている。

「チョウマメ!」
「バタフライピーではないですか」

 鷹子が叫び、晴明が驚いて声を上げた。

 ……いや、そっちが、バタフライピーって言って、私がチョウマメって言うの、おかしいよね、と鷹子は思っていた。

 確かにどちらの名前も晴明に教えたが。

 今のは完全にバタフライピーの方が馴染みがある感じだった、と鷹子は思う。

 バタフライピーの話をしたから、またその夢でもみたのかもしれないな、と思ったが、本人が話さないのでそれ以上突っ込まなかった。

「左大臣様、これは……」

「中宮様からあなたへの贈り物です。
 いや、中宮様は、あなたが望むものがあれば都合してやれと言っただけなのですがね」

 これはあなたが使用されるのですか? と実守に問われ、
「ええ、これを飲み物などに使おうかと」
と言うと、実守は少し迷ったあとで、

「使う時期と量をよく考えてお使いになられるといい」
と言った。

 それでわかった。
 何故、実守がチョウマメの話をしたとき、ぎくりとしたのかを。

「大丈夫ですよ。
 私、身籠ってはおりませんので」

 ありがとうございます、と鷹子は実守に頭を下げた。

 バタフライピーには子宮収縮作用があるので、妊娠中にはあまり飲まない方がいいと言われている。

 そんなに問題になるほどではないようだが、こういう時代だ。

 それでなくとも危険な妊娠出産時には摂取しない方が無難なものだと思われていたのではないだろうか。

 ……それを大事にとっていた理由が怖いんだが、と鷹子は実守を見る。

 敵の堕胎のためにいろいろやっていた大奥のドラマを思い出していた。

 だが、実守は今、迷いながらも自分に忠告してくれた。

「ときに……

 話し相手になってやってください、中宮様の。

 あなたにお願いできる立場ではございませんが」

 その言葉に、実守の深い親の愛を感じ、わかりました、と鷹子は微笑んだ。



 で、とりあえず、バタフライピーは手に入ったのだが。

 でもまだ蕾だしな、と思っていた鷹子は、思いもかけない場所に、大量のバタフライピーがあることを知ることになる。



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