同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ

文字の大きさ
36 / 44
田中竜王VS天花めぐる

田中竜王をイメージしたスイーツ

しおりを挟む
 
「あれっ?
 機嫌いいね、安元さん」

 遅れてやってきた若林がルカにそんなことを言ってきた。

「え?
 ああ、めぐるがルカって呼んでくれたんで」

 そう言うと、若林は小首をかしげる。

「元から仲いいのに、今?」

「めぐるの中では、私は、ずっと『変な曲かける安元さん』で止まってたんじゃないですか?」

 ようやく友達のルカになれた気がしていた。

「でも、おかしなお菓子出してきたら、遠慮なく記事でぶっ叩きますけどねっ」
と言って、若林に眉をひそめられる。

「おかしなお菓子って。
 ベタするぎるよ、安元さん……」

「いやいやいやっ。
 ギャグで言ったんじゃありませんからっ」
と言い合いながら、二人、記者用に作られたブースに向かう。
 


 対局後になってしまった田中の昼食は、地魚をふんだんに使った寿司だった。

 器も豪華、内容も豪華な寿司に黒木田が、

 こいつ、最初から食事どきには、勝利に酔うつもりで、こんな豪華なのを選んでいたのかっ!?
という顔をしていたが。

 いや、違う、と田中は心の中で言い訳をする。

 最初、メニューを見たとき、近くの養鶏場の卵で作ったオムライスが真っ黄色で美味しそうだな、と思ったのだが。

 自分がオムライスを選んだと中継されたら。

 食堂に行ったとき、百合香に、
「うちのじゃないオムライスは美味しかったかい?」
とか嫌味を言われそうで嫌だな、と思い選ばなかったのだ。

 ラーメンもいいなと思った。

 だが、ラーメンは最近、百合香の食堂のにハマっているので、これも選ばなかった。

 それで、なんとなく寿司にしてしまったのだ。

 量が少なめだったから、めぐるのデザートに集中できるなと思ったのもある。



 ちなみに、黒木田はそのオムライスだった。

 地元で採れたトマトのソースがかかったオムライス。

 黄色く、つるんと綺麗な形をしていて、美味しそうだった。



 食事は休憩も兼ねて、将棋連盟の人たちと話したりしながら、屋内でとったが。

 デザートはステージ上で、めぐるの解説を聞きながら食べるようだった。

 しかも、対局が予定より早く終わったので、急遽、久門と健までステージに上がり、スイーツを食べることになった。

「では、久門先生はどれになさいますか?」
と司会が微笑んで訊く。

「じゃあ、僕は――

 めぐるんちゃんのスイーツ、ふたつとも」

 両方とかありかっ、という顔を黒木田と二人でする。

 健が空気を読んで、
「あ、じゃあ、このフルーツパフェを」
と地元のスイーツを選んだ。

 だが、
「健、フルーツ好きだっけ?」
と久門が空気を読まずに訊く。

「……好きだよ」

「そうかー。
 じゃあ、また今度、対局するときも、フルーツあるといいねー」

「え……」

 久門はなにも考えていないようだった。

 なにも考えずに、これから先、健が将棋の世界に戻ってきて、また対局する未来が当然であるかのように言う。

 健は、
「……そうだな」
と久門に向けるにしては、珍しい笑顔を見せた。

 ……久門、たまにはいいこと言うじゃないか、と田中が思ったとき。

 待て、のきかない久門が、
「ねえこれ、もう食べていい?」
と運ばれてきた暗黒のパフェを指差した。

「えっ?
 いや、待ってくださいっ」

 今から解説しようとステージに上がってくるところだっためぐるが慌てて止める。

「いいじゃん。
 美味しそうなんだもん。

 めぐるんセンセー、一緒に週刊誌に載った仲でしょー」
と久門が言い、どっと会場が笑った。

 ……ちょっといい奴かと思ったのに。
 やはり相変わらずだな、と田中は呆れる。
 


 地元のスイーツの紹介が軽くあったあとで。

 いよいよ、めぐるの解説がはじまった。

 スクリーンに田中の手元にあるのと同じ、黒く艶やかなパフェが映し出される。

「こちらが、田中竜王をイメージして作った『絶望のパフェ』です」

 会場がどよめく。

 ……ほんとうに絶望のパフェだったのかっ。

「田中竜王、強すぎて、『盤上の死神』と呼ばれていると聞いたので。
 死神と対戦すると、絶望するなあと思って、名付けてみました」

 なんだ、そういうことか、と田中がホッとしたとき、めぐるが言った。

「ちなみに、スイーツの中身の方は、田中竜王をイメージした物を詰め込んでいます」

 ――俺をイメージッ!?

「さあ、竜王。
 お召し上がりくださいっ」

 めぐると司会が芝居がかった調子で言い、田中は手元を小型カメラで映し出される。

 ……なぜ、俺をイメージして、暗黒で真っ黒なんだ。

 腹黒なのは、俺より、久門とか……。

 いや、あいつはなにも考えてないな。

 少なくとも、黒木田の方が腹黒だぞ。

 めぐるの自分に対するイメージが気になり、将棋を指すときもそんな風にはならないのに、長いガラス製のスプーンを持つ手が震える。

 遠目にはただ黒く見えていたパフェだが。

 近くでライトが当たると、艶やかにきらめく。

 しかも、真上から見ると、濃い紫の大輪の花がグラスいっぱいに花開いていた。

「黒に近い紫のエディブルフラワーです」

 凍える真っ黒な海に沈む大輪の花。

 その美しさに会場がどよめいた。

 つるんとした凍った水面のようなゼリーから紫の花をすくい出す。

「珈琲だ」

 黒い部分は濃い珈琲ゼリーで。

 紫の花は甘く、ちょっと酸っぱく、シャリシャリしていた。

 パフェのグラスに触れている外周部分はすべて、このつるんとした黒いゼリーなのだが。

 深海にもぐるように食べ進むと、中身は違っていた。

 黒には違いないが。

 下の層は少し色が薄い。

 ムースのようだった。

「辿り着きましたね、田中竜王。

 また珈琲かな、と見せかけて。
 そこは、チョコムースですっ。

 これは絶望しない裏切りですけどね。

 実は、私、よく抹茶だと思ったら、ピスタチオで、絶望するんですよ」

 おい、全国のピスタチオファンを敵に回すな。

「でも、ピスタチオもおいしいですよね。

 というわけで、屋台では、りす型のピスタチオの焼き菓子がささったグリーンティーアイスを売ってますっ」

 宣伝も忘れない、か……。

 意外とちゃんとしたパティシエだ。

 しかしまあ、とりあえず、俺の心が暗黒だと思われてなくてよかった、と田中は、ホッとしたが。

「さあ、田中竜王っ。
 どんどん食べ進んでみてくださいっ」
とめぐるは言う。

 この先にまだ、なにかあるのかっ!?

  

 チョコムースの下はキラキラしたクラッシュゼリーだった。

 ほろ苦い珈琲の。

 ライトが当たって綺麗だが。

 なぜ、俺でこれなんだ、と田中は悩む。

 お前に想いを寄せて、砕け散る俺とか……?

 涙を飲んで食べ進むと、いきなり、暗闇のような珈琲ゼリーの中から、コロンと愛らしいハート型のゼリーが出てきた。

 ピンククオーツのような色をしている。

 これは……っ。

 もしや、俺の心の内にひそんでいた、お前への愛っ!?

 俺自身、お前を好きだなんて思っていなかったのに。

 すべて見透かされていたとはっ、と田中は、めぐるを見たが。

 めぐるは、なにも考えてなさそうな顔で、ふふふ、と笑う。

「はい、出てきましたねー。
 ピンクのハート。

 これは、イチゴの錦玉羹きんぎょくかん
 別名、琥珀糖です。

 琥珀糖作り、日本で流行ってるみたいですね。
 透明感があって、キラキラしてるから、SNS映えしますよね~。

 実は私、日本に帰ってきてから、ちょっと和菓子作りにハマってまして。

 今回、これ、田中竜王にピッタリだと思って入れてみました。

 第一印象、怖い感じだな、と思っていたのに。

 話してみると、意外にハートフル。

 珈琲ゼリーの中のピンクのハートで、そんな田中竜王を表現してみました」

 ……なんだ、ハートフルでハートか。

 田中は、ホッとしたが、会場は笑っていた。

 第一印象、怖い感じなのに、意外にハートフルで、こんなにウケるということは、みんな、俺のこと、第一印象は怖い感じ、と思っていたんだな……。

「さあ、めぐる先生のスイーツ、いかがでしたか?」

 そこでいきなり、司会に褒め言葉を要求され、田中は、えっ、と詰まる。

 確かに美味しかった気がするが。

 このパフェで、めぐるが自分をどう思っているのかわかる気がして。

 どきどきして、よくわからなかった。

「……お、美味しかったです」
と無難な答えしか返せなかったが、あとに答えた久門が、お前はグルメ評論家かみたいなことをベラベラしゃべってくれたので助かった。

 そして――

 問題の『湖畔のスワン』だ。

 なぜ、こいつの方が光輝くスワンなんだっ、と田中は、司会にすすめられ、まさに今、スワンに手をつけようとしていた黒木田を、ぎっと睨む。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...