同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ

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田中竜王VS天花めぐる

私、スランプだったんです

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 ……対局はもう終わったのに。

 田中のやつ、さっきより、すごい目力なんだが。

 実はこっちが食べたかったのだろうか?

 黒木田はシルバーのフォークを持つ手を止めた。

 それにしても、なぜ、俺が湖畔のスワンなのか。

 俺はこんな繊細で美しい生き物ではないし。

 田中もまたそうではないだろう。

 そのとき、久門が言った。

「そういえば、シュークリームには復活の呪文が一時的に効くんだよね?」

 ……またこいつ、なにを言い出した、という目で黒木田が見ると、

「いや、昔、そうめぐるんが言ってたんだって。
 めぐるんの弟くんのブログに書いてあったよ」
と言い出す。

「いやっ、だから、なんでみんな雄嵩のブログ読んでいるですかっ」
と言うめぐるに久門が言う。

「美しく貴重な蝶のように世界に向かって羽ばたいているめぐるんのことが知りたいからだよ」

 こいつみたいに、つるつるこのようなセリフを言えたら、モテるのだろうかな、と黒木田は思ったが。

 実際、めぐるんにモテているのは、田中のようなので。

 あまり効果はないのかもしれない、と思い直す。

「雄嵩くんのブログを読む僕たちは、みんなめぐるんの情報を欲しているんだよ。
 僕らは、愛らしいめぐるんにからめとられた哀れな蝶々だよ!」

「……あの、私、蜘蛛になっちゃってますけど。
 さっきまで羽ばたいていたはずなのに」
とめぐるが言って、みんなが笑う。

 いや、久門。
 和ませてくれてありがたいんだが。

 田中の目が和んでいないので、俺はどちらかと言えば、早くめぐるんの解説が聞きたいな、と黒木田は思っていた。
 


「はい、こちらのスワンですが」
とめぐるが解説をはじめたのを聞きながら、田中は青ざめていた。

 スワンがなぜ黒木田なのか。
 聞きたいのはやまやまだが。

 今の復活の呪文が気になって、お前の話が頭に入ってこないんだがっ。

 俺は雄嵩のブログをまだそこまで読んでいないっ。

 久門、雄嵩っ。
 なにが復活の呪文なんだっ、
と田中は二人を見たが、そもそも、まともな返事がかえってきそうな相手ではなかった。

「サクサクのシューにチーズを混ぜたクリームを詰めたんですよ。
 そして、複数の四角く小さいゼリーをクリームの上に置きました。

 スワンシュークリームの中のキラキラ。

 黒木田名人の内に秘めた闘志を表現してみました」

 待て。
 黒木田は闘志を内には秘めてはいないぞっ。

 むしろ、全面に現れてるがっ!?

 お前、もしや、なんか綺麗なデザートが試作でできたから、黒木田のにしてみようっ、
と思っただけだったんじゃないのかっ?

「それで、黒木田名人がなぜ、このスワンかと言うとですね。

 すみません。
 実は、黒木田名人のことはあまり存じ上げなくて。

 漠然とすごい方のようだなと」
とめぐるは素直に白状する。

「なので、これから栄光に向かって羽ばたいていくであろう黒木田名人をきらめくスワンに例えてみたんですよ」

 それはいいんだがっ。

 黒木田が栄光に向かって羽ばたいたとき、俺は追い落とされてるぞっ。

 っていうか、よく知らない奴の方がキラキラしてて。

 よく知ってる俺が真っ黒なら、お前によく知られてない方が印象がいいと言うことかっ。

 めぐるはスクリーン上の二つのスイーツを眺めながら言う。

「私、今回、対局のスイーツを作るに辺り、将棋のこと、いろいろ調べたんですけどね」

 いや、今か。

「ほんとうに棋士の方たちって、すごいなって。
 みなさん、個性豊かだし」
とめぐるが、黒木田、久門、健、田中を見回す。

 会場も個性豊かだなと思っているのか、どっとウケた。

「でも、その性格の違うみなさんが、将棋っていうひとつのことに、全員、いろんな方法で立ち向かっているのを見て、私、感銘を受けました。

 そして、また、いろいろと反省したんですよ。

 実は、このところ、スランプだったんですけど」
とめぐるが言うと、会場中が、!? という顔をした。

「……でも、ここに来て、勇気が出ました。

 本日はこんな素敵な会場で素敵な皆様と過ごせて最高ですっ。
 私もまた頑張りますねっ」

 観客やスタッフ、ステージ上の人たちから拍手がわき起こる。

「さあ、黒木田名人、お口に合うかわかりませんがっ。
 お召し上がりくださいっ」
とめぐるは黒木田の方をさっと手で示した。

 黒木田は、うむ、という感じで頷き、シュークリームをフォークで食べようとして上手くいかず。

 お手拭きで手を拭くと、手でつかみ、口に入れた。

 衝撃を受けた顔をする。

「美味いっ。
 なんという、上品な甘さっ!」

 いや、お前、どこぞのグルメレポーターか。

 コンクールの審査員か、と思いながら、田中はめぐるの菓子を絶賛する黒木田を見ていた。



「あのー、めぐるん先生。
 どの辺がスランプなのですか?」

 イベント後、ファンの子たちに、そう訊かれているめぐるを見ながら雄高は、あ~、と思っていた。

 今、スランプかどうか。

 それは本人の考え方次第のような気がする。

 そう姉を見ていて思った。

「何日に一個しか、これっていうのが浮かばない……」
とめぐるは悩んでいた。

 いや、何日に一個、これ、と思うものができれば充分なのでは……?

 そして、田中竜王も言う。

「……勝ち方がおかしいんだ。
 内容では負けている気がする。

 先へ繋がっていかないと言うか。
 これはきっと、スランプに違いない」

 田中竜王、スランプのあなたに圧勝された棋士はどうしたら……?

 二人とも、おのれに厳しすぎる。

 あと、姉貴は他のことがとても自堕落なので、気がつかなかったが。

 そういえば、一度こだわると狂ったように同じものを納得いくまで作りつづけたりするし。

 田中竜王ともども、頑張りすぎて、疲れていただけなのでは……。

 ちなみに、この二人はそれぞれ、別のインタビューで、まったく同じことを答えていた。

「いつも思うんです。
 まだまだ自分たちの上がたくさんいる。

 もっともっと努力している人たちがそこここに大勢いる。

 だから、自分も頑張らなくてはと思うんです」

 いや、そいつらはどこにいるんだよ!

 もちろん、たくさんいるのは本当だろうが。

 そこここにはいないからっ。

 ストイックすぎるっ!

 横でめぐるとファンたちの話を聞いていた師匠が微笑みを浮かべながら言う。

「めぐるんちゃんは、ほんと、田中くんと似てないようで、似てますね。

 スランプって、自己申告ですからねえ。

 いや、なんだかんだで、ほとんどの対局勝ってるけど、と思っても。

 本人がスランプだって言うのなら、そうなんだろうなあって思うだけなんですよね。

 天才の考えることなんて、私にはわかりませんし。

 脇道にそれたときも、戻ってきたときも、私はただ見守るしかできなかったので。

 今回も見守ろうかなと思って、なにも口は出さなかったんですけど。

 めぐるんちゃんのおかげで、いい気分転換にはなったと思いますよ」



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