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疾走するさっちゃん

新しい都市伝説

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「乃ノ子ーっ」

 数日後、学校を出たところで、乃ノ子は友だちに呼び止められた。

 あの日、乃ノ子がさっちゃんの話をしたら、

「ああ、あの、
『私を捨てたのは、お前かーっ』ってやつ?」
と言ってきた友人、紀代のりよだ。

「さっちゃん、この間見たって、友だちの友だちが言ってたって、友だちが言ってたよ」

 いや、だから、結局、見たのは誰なんだ、と乃ノ子は苦笑いする。

「『私の前にいるのはお前かーっ』
 って赤いリボンつけたさっちゃんが言うんだって」

 私に出会ったんで、特に言うことなくなったんだな……。

 さっちゃんは、今日も子どもたちを喜ばせるため、言霊町を疾走しているようだった。

「……そういえば、写真、撮りそびれた」

 また何処かで疾走しているさっちゃんを見たら撮ろう、と思いながら、乃ノ子は紀代と話しながら帰る。

「さっちゃんに帰ってもらうには、頭につけてる赤いリボンを綺麗に結び変えてあげたらいいんだって」

 へー、と言いながら、あのお弁当屋の前を通ったが、今日はジュースを飲みたくはならなかった。

 陸橋に向かいながら、紀代が言う。

「あーあ、横断歩道渡れたら近いのにね。
 うちの学校、校則細かいよね。

 小学校じゃあるまいし」

「……そうだね」
と言いながら、乃ノ子は夕暮れの横断歩道を振り返る。

 そこには今は誰の人影もなかった。



              『疾走するさっちゃん』完



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