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ムラサキカガミ
怪しいAIの人と待ち合わせしています
しおりを挟む志田も一緒にその暗い坂道を見下ろしながら、
「いつ来るんだ、その友だち」
と訊いてきた。
友だち……。
友だちなのだろうかな、あの人は、と思いながら、乃ノ子は言った。
「それが仕事が押してるみたいで」
「仕事?
社会人なのか?」
「はあ。
都市伝説を調べてるらしいんですよ、言霊町の」
「民俗学の先生か?」
「いえいえ」
「地元のタウン誌の記者かなにかか?」
「そんな感じです」
イチが聞いていたら、なに適当なこと言ってんだ、コラ、と言ってきそうだったが。
「なんか探偵みたいな人なんですよ」
と言うのは、怪しいAIの人と待ち合わせしています、というのと同等に怪しい話になるのでやめておいた。
そもそもあの人、『都市伝説を探している』とか、『猫を探して生計を立てている』みたいなことを言っていただけで、自分で探偵だとか言ってないしな、と気がついた。
「そうか。
まあ、とりあえず、来い。
スマホ持ってんだろ?
その記者の人には先に見てくるとでも言っておけ。
俺は呑気に、その人待ってるほど暇じゃないんで」
と志田は言う。
そりゃまあ、ごもっともですよねーと思いながら、乃ノ子は、
「中学のときの先生が大学にいて、鏡を見せてくださるというので、先に入ってます」
とイチに送った。
イチからの返事はなかったが、志田について、街灯に照らし出された構内の道を部室棟に向かい、歩き出す。
意外と門からが長いな。
今はただ緑の葉を茂らせているだけの桜並木を歩きながら、乃ノ子は思う。
前を行く志田の背中を見ながら、乃ノ子は呟いた。
「こういうとき、大抵、先生、霊ですよね」
またなにを言い出した、という顔で志田が振り返る。
「やっと、助けがっ! と思ってついていった人は大抵、悪霊なんですよ」
「……お前、人の親切を。
置いてくぞ。
っていうか、お前、今、やっと助けがというほど困ってたか?」
ただ単にその記者の人がなかなか来なくて、時間持てあましてただけだろう、と言われる。
そういえばそうだ。
なにかがついて来てる気がして急いで此処まで来たけど。
待ってる場所が暗かったことと、イチさんがまだ来そうにないこと以外に困っていることは特になかった。
「いやあ、すみません。
今にも、こんな顔かい、とか振り返られそうなシチュエーションだったので」
阿呆か、と言ったあとで、志田が訊いてくる。
「お前、その記者の人と何処で知り合ったんだ?
なんで急にそんな怪しい取材に付き合うことになったんだ」
「はあ……ちょっと友だちが入れてくれたアプリのせいで、妙な企画に巻き込まれまして」
そんな曖昧な話をしてしまったせいで、説教がはじまる。
「なんだ。
ネットで知り合ったのか? その記者と。
気をつけろよ。
そいつ、本当に記者なのか?
怪談より、ネットの世界の方がいまどき怖いぞ」
いや、ごもっともですよ。
すでに気をつけても遅い感じなんですけどね……と思っているうちに、部室棟に着いていた。
「もう鍵かかってるな。
ちょっと待て。
鍵とって来てやるから。
……此処で待ってるのは怖いよな。
ついて来るか?」
と問われたが。
知らない大学内に入っていくのもなんだかなという感じだったし。
イチに此処にいると言ってしまったので、乃ノ子はそこで待つことにした。
幸い、部室棟の入り口には明かりがついており、校舎も目の前にある。
校舎の方は、まだたくさんの人の気配があって、見ているだけで安心できた。
「なにか凶器はないのか。
怪しい奴が来たら、殺やっていいぞ。
ナンパしてくる男子生徒も殺っていいぞ」
と言うので、笑ってしまう。
誰かナンパしてくるくらいまだ構内に人がいるのなら、大丈夫か、と思い、乃ノ子はそこでおとなしく待つことにした。
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