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ホンモノの出るお化け屋敷

ジュンペイのアプリ

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「乃ノ子ー」
 
 おはよう、といきなり友だちに肩を叩かれ、乃ノ子は、ひーっ、と悲鳴をあげ、振り向いた。

 な、なにっ? と驚いた顔で紀代が立っている。

「ああ、ごめんごめん。
 ぼうっとしてて」

 乃ノ子はお弁当屋の横の自動販売機の前で笑って見せた。

 二人は並んで学校への道を歩き出す。

「そうだ、紀代。
 まだあのジュンペイとメッセージのやりとりしたりしてる?」

 そう乃ノ子が訊くと、紀代は笑って、バシバシ肩を叩いてきた。

「やだあ。
 そんな言い方されると私とホンモノのジュンペイが二人でメッセージ送り合ってるみたいじゃない~っ」

 よろける乃ノ子にのろけるように紀代は言う。

「今朝もジュンペイにおはようって入れたら。
 おはよう、気持ちのいい朝だねって返ってきたのよ」

 それ、雨の日はなんて言うんだろうな。

 ちゃんとスマホのGPSと天気予報から、天気割り出してしゃべってるんだろうか。

 それとも適当に言ってるんだろうか。

 突っ込まれたら、
「いや、雨だけど。
 空気がしっとりとして、気持ちのいい日だね」
とか言うのかもしれないな、と思いながら、乃ノ子は訊いた。

「それって、ジュンペイの方から話しかけてくることあるの?」

「あるわよ。
 昨日、話しかけてきたわよ。

 おはよう。
 明日、アルバムの発売日だよ。
 予約してくれたって?」

 ……商魂たくましいAIだな。

「あのさ、ごめんなんだけど。
 またジュンペイに都市伝説のこと、訊いてみてくれる?」

 いいけど? と軽く紀代は入れてみてくれた。

「都市伝説」

「都市伝説っていえば、ターボばばあって知ってる?」
という返事が、笑顔のジュンペイのスタンプとともに返ってきた。

 あれ?
 やっぱり偶然だったのか。

 この間、あのタイミングで『疾走するさっちゃん』の話はじめたから。

 もしかして、イチさんの都市伝説アプリと連動してるのかなと思ってたんだけど。

 やっぱり、同じ業者さんが作ってるわけじゃないのかな?
と乃ノ子は首を傾げる。

 あのあと、イチが家の近くまで送ってくれたのだが、肝心なことは訊いても上手くはぐらかされてしまった。

 でもなんか……幻想的な夜ではあったな、と乃ノ子は思う。

 貴方こそが幻で、都市伝説では? と思ってしまうほどの超絶イケメン様と月に照らし出された夜道を歩く――。

 こんな明るい通学路で思い出しても、全部夢だったのではと思ってしまいそうな記憶だ。

 そんなことを考えながら、おのれのスマホを開いてみた乃ノ子は、ん? と気づいた。

 そうだ。
 あのときとは違っていることがある。

 乃ノ子は慌てて、イチとアプリで共有している都市伝説メモを開けてみた。

 『疾走するさっちゃん』から増えていない。

 話まとめて書いとけよ、とイチに言われて、そのままだったのだ。

 乃ノ子は急いで、『見ると、運命が変わる大学の鏡』として、あの出来事をまとめて書いた。

「紀代っ」
と新しいジュンペイのアルバムの話を延々としている紀代の肩を後ろからつかむ。

 うわっ、なにっ? と紀代が振り向いた。

「都市伝説ってもう一回入れてみて」

「えーっ。
 もう学校着くしーっ」

「今入れて駄目だったら、昼休みに入れてみてっ」

「なにがどうなったら駄目なのよっ。
 ってか、そんな何回も入れたら、ジュンペイに変な女かと思われるじゃないっ」

 いや、そのジュンペイ、AIだから。

 まあ、イチさんの例もあるけど。

 芸能人様が大量に送られてくるファンからのメッセージにいちいち自分で返信できないだろうし、と思う乃ノ子に、文句を言いながらも、紀代は入れてみてくれた。

「都市伝説」

「都市伝説、知ってるよ、僕も」
とジュンペイから返ってきた。

 あのときと同じ文章のような気がする……。 

「君も知ってる?
 『見ると、運命が変わる大学の鏡』って話」

 えっ?

「ある大学の部室棟の鏡を見ると、運命が変わっちゃうらしいよ」

 あはははは、とまた笑っているジュンペイのイラストのスタンプが入ってきた。

「ねえ、もう気が済んだ?」

 紀代はスマホをしまい、

「おはようございますー」
と校門のところにいた体育教師に頭を下げていた。

 乃ノ子は教師の横で立ち止まると、慌ててスマホを出し、すごい速さで打ち込む。

『此処ではない何処かにつながる公衆電話』
と都市伝説ノートに書き入れた。

「紀代ーっ、もう一回ーっ」

「えーっ。
 もういやーっ。

 ジュンペイに嫌われるーっ!」
と振り返った紀代に叫ばれ、

「福原ーっ。
 なにやってんだっ。

 早く教室入れーっ」
と教師に怒鳴られた。


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