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ホンモノの出るお化け屋敷

リアルにトモダチのトモダチがやって来ました

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「乃ノ子、乃ノ子ー」
と休み時間、紀代がやってきた。

 隣のクラスの友だちとやらを連れて。

「あんた、都市伝説好きじゃん」
と紀代に言われ、

 いや……そのような趣味嗜好になった覚えはないのだが、
と思いながらも、乃ノ子はとりあえず、話を聞く。

三戸みとちゃんがさ。
 去年聞いた都市伝説が気になるんだって」

「……去年?」

「こんにちは。
 三戸風香みと ふうかと申します、福原さん。

 よろしくお願いいたします」
と紀代の隣に立つ、セミロングのふわふわとした髪の少女に深々と頭を下げられた。

 よ、よろしくお願いします、と乃ノ子も頭を下げ返す。

「去年聞いて。
 そのときは気にならなかったんですけど。

 また、夏が来たので」

 そう風香はおずおずと話し出した。

 何故、敬語……。

 我々は同級生ですよね、三戸ちゃんとやら、と思う乃ノ子に風花は言う。

「実は……この言霊町に、ホンモノが出るお化け屋敷があるって聞いたんです。
 でも、何処のかはわからなくて」

「……えーと。
 ホンモノ、とは?」
と乃ノ子が訊き返すと、

「ホンモノの幽霊ってことじゃないの?」
と紀代が口を挟み、

「たぶん、そういう意味だと思うんです」
と風香も頷いた。

「それで、うっかり行っちゃったらどうしようと思って」

「お化け屋敷行く予定あるんですか?」

 風香につられて、乃ノ子も敬語になりながら訊いてみた。

「あ、あります」
と風香は赤くなってうつむく。

「できたばかりの彼氏と行くんだって。
 普通、そう聞いたら協力しないとこなんだけど。

 まあ、三戸ちゃんだからね」

 これは私だったら、協力しないということだろうかな。

 いやまあ、彼氏ができる予定など、まるでないのだが……。

 そんなむなしいことを思いながら、乃ノ子は二人に訊いてみた。

「言霊町にお化け屋敷って何個あったっけ?」

「私が知ってるのは、三つかな。
 どれももうやってるよ」
と紀代が言う。

「三つか。
 それくらいなら、チェックできるか。

 ところで、三戸ちゃん、その話、誰に訊いたんですか?」

 ……えーと、と少し考えて、風花は言った。

「たぶん。
 友だちの友だちに――」




「まあ、彼氏と行くのなら、ホンモノ出てもいいと思うんだけどね。
 きゃーって抱きつけたりするじゃん」
と帰る道道、紀代が言ってきた。

「いや~、でも、ホンモノだと、彼氏もぎゃーっと逃げ出しそうよ」
と乃ノ子が言い、それはまずいか、と二人頷き合う。

 紀代と話しながら陸橋まで行った乃ノ子は、ふと、お弁当屋さんの方を振り返ったが、なにもなかった。




「ほう。
 ホンモノが出るお化け屋敷か。

 悪くないな」

 夜、イチに報告すると、イチからすぐに、そう返事があった。

 乃ノ子はホッとしながら、イチに言う。

「イチさんは、すぐに会話が通じてすごいですね~」

「……舐めてんのか、てめー」

「いやー、すみません。
 さっき、通販会社のチャットボットに質問してたんですけど。

 なかなか話が噛み合わなくて。
 何度も質問し直しになるし」

「何度も言うようだが。
 俺はチャットボットでもAIでもないからな」

 リアルで会っただろっ、と言われるが。

「いや、あれ、VRだったかもしれないじゃないですか」
と乃ノ子は言い返す。

「てめー、いつヘッドセット被ったっ」
と言われてしまったが。

 いやあ。
 だって、この世のものならぬ感じのイケメンだったので……、
と思っていたが、本人に言うのも恥ずかしいので黙っていた。

「よし、とりあえず、その言霊町の三つのお化け屋敷を洗い出して」

 まで送信してきたイチだったが、何故かそこで、十数秒、沈黙し、

「いや、待て」
と言ってくる。

「この話は、今はやめておこう」

「何故ですか」

「都市伝説の匂いがしないからだ」

 都市伝説の匂いってなんだっ、と思いながら、乃ノ子は訊いてみた。

「もしかして、あれですか。
 今、ネット上のデータベースを検索したら、都市伝説でないと出たとか」

「まあ、そうかな」
とイチは言うが。

 返事が早すぎて怪しい、と乃ノ子は思う。

「瞬時にデータベースを検索するとか、イチさんにそんな力あるんですか?」
と思わず言ってしまい、

「てめーが言ったんだろうが、最初によっ」
とイチに怒りマークのスタンプを送ってこられた。


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