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ホンモノの出るお化け屋敷

あやかし すねこすり

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「――って、イチさんは言うけど。
 お化け屋敷、調べようと思うのよ」

 次の日の夕方、乃ノ子は自動販売機の前で友だちと話をしていた。

「いいの? それ」
と友だちは笑っている。

「だって、あやしいじゃん、なんか。
 あのイチさんが調べるななんて。

 まあ、言霊町にお化け屋敷、三つしかないらしいし、回ってみるくらいできるよね」

 今年、新しいお化け屋敷ができているとしても、あのウワサは去年のもののようだし。

 それは外してもよさそうだ、と思いながら、

「一緒に回る?」
と乃ノ子は友だちに訊いて、

「回れるわけないじゃん」
と笑われる。

「そうか。
 じゃあ、ひとりで、ささっと行ってみるね。

 あんまり時間かけてると、イチさんにバレそうだしね」

 友だちは、うーん、となにか考えるように遠くを見つめ、

「まあ、問題ない気がするけど。
 なにかあったら、イチさんに言ってみたら?」
と言ってくれる。

「怒られそうだけどね」

 そう言いながら、乃ノ子は、マスキングテープをカメラに貼った。

 イチから覗き見られないようにだ。

「いいの? それ」

 ちょっと笑いながら、友だちが訊いてくる。

 いいのいいの、と言いながら、じゃあ、と乃ノ子はその場を去った。

「あっ、なにしやがる!」
とイチから入ってくるかと思ったが、それはなかった。

 まあ、忙しいのかもな。

 ……猫探しで、と乃ノ子が思っているころ。

 イチは犬を探していた。




「猫探しも大変だが、犬探しも大変だな。
 もうお前に目鼻つけて、犬ですって言って引き渡すかな。

 なあ、すねこすり」

 夕暮れの図書館近くの茂みの中を探しながら、イチは、あやかし、すねこすりに向かって話しかけていた。

 すねこすりは雨の夜に現れるという、犬とも猫ともつかない小型の生き物のようなあやかしで。

 そのふわふわした毛をスネにこすりつけてくるのだ。

 まあ、このすねこすりは、犬でもなく、猫でもなく、ふわふわした白い大きな玉みたいなもので。

 もしかしたら、すねこすりではなく、巨大なケセランパサランなのかもしれないが、話しかけても答えないのでわからない。

 ちなみにケセランパサランとは、幸運を呼ぶという、白いうさぎの尻尾のようなものだ。

「……今のところ、あやかしと都市伝説と乃ノ子しか呼んきてないから違うかな」

 そう呟いたあとで、スマホを見た。

「乃ノ子のやつ、ひとりでお化け屋敷、調べてんじゃねえだろうな」

「そうかもしれないねえ」
といきなり背後で声がした。

 すねこすりはしゃべらないはずなのに、と思って振り向くと、若い男が立っていた。

「……なにしてんだ、こんなところで」

「いやいや。
 ちょっと時間が空いたから。

 そうだ。
 僕が見ててあげようか、乃ノ子ちゃん」

 そう言い、男は笑ってみせた。

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