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ホンモノの出るお化け屋敷
お化け屋敷をめぐってみました
しおりを挟むお化け屋敷のハシゴは辛い。
だんだんお化けが怖くなくなってくるからだ。
なにかこう、疲れてきて。
ばっ、と目の前に出てきたお化けに驚かず、ぼんやり立っていたりして、お化けの人を不安がらせてしまったりする。
「……すみません」
と乃ノ子は謝り、
「……いえ」
と背中に矢がいっぱい刺さった落ち武者に言われた。
落ち武者は、そのまま墓の後ろに戻っていく。
せっかくそうやってスタンバイしてくださってたのに、申し訳ございません……と思った乃ノ子は、まだ誰も来る気配もなかったので、
「あのー」
と落ち武者の人に話しかけてみた。
「ホンモノが出るお化け屋敷って都市伝説について調べてるんですけど。
此処、ホンモノの幽霊とか出ます?」
返事はなかった。
そうだよね。
お化け、会話しちゃいけないよね。
「すみません。
ありがとうございました」
と乃ノ子は行こうとしたが、次の間に移ろうというところで、ぼそりと後ろから聞こえてきた。
「僕、一年此処で働いてるけど。
一度も見てないね」
えっ? と振り向いたが、誰もいなかった。
墓の裏から話しかけてくれているらしい。
「ただ……」
ただ? と思ったとき、騒がしいカップルの叫び声が近づいてきていた。
「此処の外でなら見たことあるよ。
じゃっ」
と早口に彼は教えてくれる。
「あっ、ありがとうございましたっ」
お邪魔にならないよう乃ノ子は急いで墓場を出た。
此処の外って、建物の外ってこと?
此処は近くにある昔ながらの遊園地のお化け屋敷だ。
遊園地の外かもしれないな、と思いながら、暗い通路を通り、乃ノ子が出た場所は畦道だった。
長い長い夕暮れの畦道。
道の両端にずらっと風車が並んでいて、風もないのに、すごい勢いで回っている。
その風圧で足許が涼しいくらいだ。
畦道の中程にあるお地蔵様を見ながら、こんなに広いお化け屋敷だったかな、と乃ノ子は思っていた。
でも、さっき行ったふたつめの、ゲーセンの中のお化け屋敷なんか。
あの狭さの中に学校作ってあったもんなー。
いろいろ大変そうだな、お化け屋敷作るのも、と思いながら歩いていると、背後でカサリと音がした。
振り返ると、長い髪を振り乱した、白い着物の人が立っていた。
乱れた髪のせいで口許しか見えない。
細い顎と美しい形の口許は女性っぽくもあるが、体格がなんだか男だ。
その着物の男はものすごい勢いで、こちらに向かい、走ってきた。
ひいいいいいいっ、と乃ノ子は猛ダッシュで逃げる。
だが、乃ノ子を追いかけていたはずの幽霊は、あっという間に乃ノ子を追い越していってしまった。
追い越しちゃ駄目じゃん。
足、速すぎ。
……幽霊、なにがしたかったんだ、と思っていると、その幽霊が笑いながら戻ってきた。
「足、遅すぎだよ。
乃ノ子ちゃん」
えっ?
そのとき、カップルの声が近づいてきた。
幽霊はカツラと着物を脱ぎ、乃ノ子の頭に被せ、肩にかける。
「僕に話を聞きたかったら、さっさと次の客、走らせて帰らせて」
そう言った幽霊の顔には見覚えがあった。
紀代のスマホでよく見るアイコンの顔。
「ジュンペイ!?」
と叫び終わる前に、
「ほら、一旦、隠れて。
カップルの後ろから追いかけてっ」
とアイドル、ジュンペイに手をつかまれる。
幽霊などではない。
普通に温かい手だった。
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