上 下
24 / 94
ホンモノの出るお化け屋敷

お化け屋敷の真実

しおりを挟む



 ……幽霊をやらされてしまいました。

 しかも、勢い余って、カップルと一緒に外に飛び出してしまい、遊園地のお客さんたちに、ぎょっとされてしまいました……。

 乃ノ子がカップルを追って外に出ると、みんなが、なんだなんだ? とこちらを見て。

 大迫力で面白そうなお化け屋敷だとお客さんが増えたようだった。

「はい」
と乃ノ子が受付に、脱いだ扮装を返すと、ええっ? と受付の男が二度見していた。

「あの」

 ジュンペイさんは、今、何処に……、
と此処で訊いていいものだろうか、と悩んだ乃ノ子は、とりあえず、

「ありがとうございました」
となにがありがとうなんだかわからないまま言い、受付を離れる。

 お化け屋敷の外で待つことにした。

 ジュンペイは、なにか話してくれそうだったからだ。

 暑いので自動販売機でジュースを買おうとしたが、なんとなく、あのお弁当屋さんの横の自動販売機が頭に浮かぶ。

 ……なんかあそこで買わないと、祟られる気がするな。

 誰に祟られるかってもちろん……と思いながら、乃ノ子が買うのを躊躇ちゅうちょしていると、
「買わないの?」
と後ろから声がした。

 振り返ると、細身で感じのよい青年が立っていた。

 ジュンペイではない。

 あ、邪魔だったかな、と思い、
「すみませ……」
と言って避けようとしたとき、

「わからない?」
とその男が笑って言ってきた。

 は? と見上げると、
「これこれ」
と男は両の手を、うらめしや~と上げてみせる。

「あっ、もしかして、落ち武者さんっ?」

 そう乃ノ子は叫んだ。




「え?
 ジュンペイさんに幽霊やらされたの?

 あの人むちゃくちゃだからな~」
と落ち武者さんこと、中山茂なかやま しげるは笑って言った。

「ジュンペイさんって、なんで此処で幽霊やってんですか?
 アイドルですよね?」

 そっくりさん? と乃ノ子が訊くと、

「いや、ホンモノ。
 内緒だよ」
とヒソヒソと茂は言ってくる。

「ジュンペイさん、アイドルになる前、此処で幽霊のバイトやってたらしいんだよね。
 それでたまに来て、手伝ってくれんの。

 いや、手伝ってくれてるっていうか。
 ……煮詰まったときに来るみたい」

 ははは、と茂は笑っていた。

「アイドルって大変そうですもんね」

「そうなんだろうねえ。
 でも、幽霊やって憂さ晴らしって変わってると思うけど。

 まあ、芸能人なんてみんな変わってるんだろうからね。

 でもさ、ファンってすごくて。
 幽霊の扮装してたら、口許と体格しかわからないのに、

『ジュンペイだっ』
 って言って、カツラ外しに行っちゃう子いるんだよね。

 そんなとき、ジュンペイさんは、
『内緒だよ。
 ドッキリの撮影だから』
 って言って誤魔化してるみたいなんだけど」
と茂は言って笑う。

「……じゃあ、もしかして、ホンモノが出るお化け屋敷っていうのは」

「ホンモノのアイドルが出るお化け屋敷かなあ。
 ジュンペイさんと約束したから、名前は出さないままで。
 でも、なにか言いたくて、誰かが流した噂なのかも」

「なんだ……。
 都市伝説じゃなかったんですね」

「いや、ホンモノのアイドルが出るお化け屋敷って、ある意味、都市伝説じゃない?」
と茂は言う。

 イチさんは、この件は調べなくていいと言っていた。

 もしかして、イチさんには、この噂の真相がわかってたとか?
と思ったとき、乃ノ子は、さっき、茂が言った言葉を思い出していた。

「あ、でも、外では幽霊見たことがあるっておっしゃってましたよね?」

「いや、実はジュンペイさんがさ。
 此処の外で男の人と話してたことあって。

 誰だろうって思って見てたら、言ってきたんだ。

 その人は、自分の兄で、幽霊なんだって」

 あの人、やっぱり変わってる、と言う茂に乃ノ子は言った。

「……その男の人、どんな人ですか?」

「いやそれがさ。
 黒いスーツ着たビックリするようなイケメンでさ」

 なんだろう。
 嫌な予感しかしないんだが……。

「ジュンペイさん、その人のことを僕に紹介して言ったんだ。

『この人は、この世に生まれていないはずの僕の兄だ』ってね」



しおりを挟む

処理中です...