26 / 94
ホンモノの出るお化け屋敷
私からもひとつ教えてあげる
しおりを挟む「じゃあねー、乃ノ子ちゃん。
今度また何処かで会ったら、ゆっくり話そうねー」
ジュンペイは仕事があるから、と帰っていってしまった。
いや、芸能人様と今度また何処かで会う機会などなかなかなさそうなのだが。
生きているが芸能人と、そもそもが生きているのか怪しい人。
どちらもレアキャラだな、と怪しい人の方と取り残された乃ノ子は思う。
「せっかくだから、遊んでくか」
遊園地の中を見回し、イチが言う。
「あのー、此処の都市伝説調べなくていいって言ったのは、ジュンペイさんの話だとわかってたからなんですか?」
「そう。
無駄足を踏むだろうと思ってな」
「でも、芸能人が現れるお化け屋敷なんて、ある意味、都市伝説なのでは……?」
さっきのお化け屋敷の人もそう言ってましたよ、と言ったのだが。
「いや、なんか身内の都市伝説って全然、都市伝説な感じがしないだろ」
「それを言うなら、トイレの花子さんの親戚とか。
疾走するさっちゃんの親戚とかも都市伝説な感じがしないという話になるじゃないですか」
「花子さんとさっちゃんの親戚、何処にいるんだよ……」
いやまあ、そうなんですが……と思いながら、乃ノ子は今日も黒いスーツ姿のイチを見た。
黒のスーツはイチの男にしては白い肌がよく映えるが。
暑くないのだろうかな、と乃ノ子は思う。
イチはいつもひとりだけ別世界にいるかのように涼しげだ。
なんのアトラクションに乗ろうかと眺めているらしいイチを見つめていると、イチが振り返り、訊いてきた。
「どうした、乃ノ子」
「いえ。
イチさん、いつも涼しそうだなと思って」
「俺はいつも冷えてるからな」
イチは乃ノ子の手を握ってきた。
確かにひんやりしているっ。
いや、それ以前にイチさんに手を握られているっ。
乃ノ子は慌てて逃げたが、イチはなにも気にせず、笑っている。
イチさんにとっては、こんな小娘、女のうちには入らないんだろうな、と思う。
……でも。
今、イチさんに触れられたときの冷たさ。
確かに異様だったな。
暑いのに、イチの周りだけ、空気が少し違う気がした。
「おい、乃ノ子。
あれ乗ろう、あれ」
イチは空中で大きな船が揺れている乗り物を指差す。
「あ、あれは嫌ですっ。
もっと平和なのっ、もっと平和なのをお願いします~っ」
イチに引きずっていかれないよう、踏ん張りながら乃ノ子は叫んだ。
「それで結局遊んで帰ってきたの?
なにやってんのー」
次の日の夕方、乃ノ子は自動販売機の前で友だちに笑われた。
「いや、どっちみち、都市伝説なにもなかったしさ」
「あったじゃん。
都市伝説『アイドルが現れるお化け屋敷』
いいな~。
私も行きたいな~」
と友だちは言う。
「せっかくジュンペイに会ったんだからさ。
訊いてみればよかったのに、いろいろと」
「なにを?
都市伝説のこと?」
「……都市伝説かどうかは知らないけど。
ずっと誰かに訊きたいと思ってたこと、あるんじゃない?」
そう言った友だちは、いつものように夕暮れの光の中、少し笑って言ってきた。
乃ノ子が答えないでいると、友だちは言う。
「じゃあ、乃ノ子。
私からもひとつ教えてあげるよ、都市伝説――。
これ……、友だちに聞いたんじゃないの。
夕方5時ごろ、救急車の赤い光を学校近くの交差点で見ると、知らない間に悲鳴を上げちゃうんだって」
いや、今、友だちに聞いたんじゃないって言ってなかったか?
何故、伝聞口調……。
都市伝説というのは、ほぼすべて、
『友だちの友だちに聞いたんだけど』
ではじまり、
『~なんだって』
で終わる。
だから、つい、友だちから聞いたわけではない、と言いながらも、『~だって』で終わってしまったのだろうか。
そんなことを思いながら、乃ノ子は黙って友だちの顔を見ていた。
名前も知らない、その友だちの――。
その夜、乃ノ子は夢を見た。
ミラーハウスにひとり立つ自分。
乃ノ子は、たくさんの自分に囲まれていたが。
真後ろに立っているのは、自分ではなかった。
小さな男の子だった。
子どもらしからぬ据わった目で、彼は乃ノ子を見ている。
『乃ノ子――』
何処かで聞いたその声で、彼は乃ノ子の名を呼んだ。
『ホンモノの出るお化け屋敷』完
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる