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見知らぬ町と迷わし神
見知らぬ町の話知ってる?
しおりを挟む「見知らぬ町の話知ってる?」
放課後、乃ノ子がいつものように忘れ去られたガードレールに腰掛け、自動販売機のジュースを飲んでいると、友だちが言ってきた。
「いや、この間言ってた都市伝説はどうなったのよ。
夕方5時ごろ、救急車の赤い光を学校近くの交差点で見ると、知らない間に悲鳴を上げちゃうってやつ」
と乃ノ子は、その名前も知らない、いつから側にいるのかもわからない友だちに訊いたが、
「それは自分で調べなさいよ」
と彼女はつれないことを言ってくる。
「行ったこともない町なのに、何度も夢に出てくるんだってさ」
と言う友だちに、
「あー、あるある、そういうの」
と乃ノ子は頷いた。
「私も見るよ。
見たこともない古い小さな駅舎でさ。
そこで誰かを待ってるの。
駅の横に商店街があるんだけど。
何度夢で見ても、同じ店の並びなの」
「その並び、今、言える?」
と訊かれ、乃ノ子が、いや~、と言うと、
「それ、夢の中で、同じ並びだなあ、と思ってるだけで、同じじゃないかもしれないわよね」
と友だちは言った。
「そうなのかな。
じゃあ、同じ夢だと思ってるだけで違うのかも。
ところで、私、ここでよくあんたと話してるけど。
人から見たら、ひとりでしゃべってる変な人ってことにならない?」
ふと不安になり、乃ノ子はそう訊いてみた。
「ああ、大丈夫でしょ。
私といるとき、少し空間歪んでるから。
見えてないか。
見えてても、意識に残らないよ、たぶん。
ジュンペイさんやイチさんなら、見えるかもしれないけど」
「そういえば、ジュンペイさんやイチさんとは知り合いなの?」
そう乃ノ子は彼女に訊いたが、
「そういうわけじゃないよ。
でも、私、ジュンペイのファンでさ」
と言いながら、彼女はスマホを握るような仕草をしたが、その手にはなにもなかった。
「ジュンペイからのメッセージ、楽しみにしてたんだ。
いや、ホンモノじゃなくてAIだけどさ。
でも、今みたいな状態になって気がついたの。
あのアプリには歪みがあるなって」
「歪み?」
「この世界のいろんな場所に、『ここではない世界』とつながる歪みがあるの。
例えば、今、乃ノ子がこの場所にいるみたいに」
と友だちは足許を指差した。
「なんで、私、ここにいるんだろ」
と乃ノ子が言うと、
「私が呼んだんだよ、たぶん。
でも、なんで乃ノ子を呼んだのかはわからないし。
私が誰なのかもわからない……」
そう友だちは言った。
「疾走するさっちゃんみたいに、あんたに都市伝説としての名前つけてもらって、有名な怪異になるのも悪くないかなとか思ったりもしたけど。
そしたら、もう元には戻れない気がする」
と友だちは足許を見る。
「ごめんね、乃ノ子。
あのアプリをあんたにはじめさせたら、なにかが動き出す気がしたんだよ」
……確かに動き出した。
でも、この友だちと知り合った時点で、もうきっと動き出していた。
そして、友だちと知り合うきっかけのことも考えると、もうずいぶんと前から、私は怪異に足を突っ込んでいたのだろう。
知らない間に――。
そんなことを思っていると、
「まあ、すごいイケメンらしいイチさんと知り合えたから、よかったよね」
と友だちは笑う。
「いや、あんたの物事の判断基準おかしい」
と言ったが、友だちはまだ笑っていた。
「乃ノ子」
「なに?」
「笑ってる女の子は可愛いって言うけど、私、可愛い?」
「……別に笑ってなくても可愛いけど」
と言うと、友だちはやたら食いついてくる。
「ほんとにっ?
どんな感じにっ?
例えて言うならっ?」
いやいや、どうした……と思っていると、
「私、私の顔がわからないの。
鏡にもガラスにも映らないし。
乃ノ子の瞳にも映らない」
と友だちは言う。
「大丈夫だよ、可愛いよ」
そう乃ノ子が笑って言うと、
「えっ? そう?
アイドルに例えると?」
と友だちは突っ込んで訊いてきた。
「何故、いきなりアイドル……」
「だって、私、可愛いんでしょう?」
そのまま、どのアイドルに似ているか、という話をして、
「じゃあ、そろそろ帰るわ」
と乃ノ子がガードレールから腰を上げると、先程までの陽気さの消えた友だちがそのガードレールを見て言った。
「これさ、道の形が変わったとき、外し忘れたみたいで、ずっと此処に残ってるの。
私もなにかから忘れ去られたみたいに、こんな妙な空間にいる。
生きているのか、死んでいるのか。
何処かへ帰りたい気もするけど。
それが何処なのかもわからない。
制服着てるってことは、学校の帰りだったのかな?
私、帰り道を間違ってしまったのかも。
迷わし神にあったみたいに――」
友だちは遠く、夕日の方を見る。
その先に自分の帰る場所があるかのように。
「迷わし神?」
「道に迷わせる神様だよ。
神様っていうか……あやかし?」
迷わし神に会うと、別の空間に迷い込んじゃったりするのかもね、と言ったあとで、
「じゃあね」
と友だちは手を振り、渡ってはいけない横断歩道を渡っていこうとする。
「帰れるの?」
と不安になって訊いたが、
「何度も歩いていってみてるんだけど、また戻ってきてんるんだよね。
でも、今日も帰ってみる。
バイバイ、乃ノ子」
と友だちは振り返り手を振った。
「ついて行こうかー?」
と乃ノ子は叫んだが、横断歩道の半分まで行ったところから友だちは言ってくる。
「いいよ。
ひとりの方がいい。
あんた、歩道橋渡らないと怒られるしね。
あ、友だち来たよ」
じゃあね、と言って友だちは去っていってしまった。
「乃ノ子っ。
一緒帰ろう」
と後ろから紀代がやってきた。
振り返り、乃ノ子は訊く。
「私、今、なにしてた?」
「なにしてたって歩いてたじゃん、歩道橋に向かって。
なになに? 鼻歌でも歌ってたー?」
と笑われる。
もう一度、横断歩道を振り返ってみたが、もうそこに友だちの姿はなかった。
渡り切って何処かへ行ってしまったからなのか。
それとも、もう自分があの空間から出てしまったので、見えなくなっただけなのか。
どちらが正解かもわからないまま、乃ノ子は時折、振り返りながら、紀代と歩道橋を上がっていった。
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