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見知らぬ町と迷わし神
まるで、あべこべの世界だな~
しおりを挟む「百年前なら覚えてるわけないじゃないですか」
っていうか、生きてないと思うんだが……と思いながら、暗い森の中、イチを見上げて乃ノ子は言った。
「そうだな。
今のお前は生きてない」
イチは平然とそんなことを言ってくる。
「あ、あの~、私、此処にくる途中で、夢でよく見る見知らぬ町と似た町を見たんですが」
「似てたが、違ってたんだろう?」
とイチが煙を吐き出したとき、その煙は消えずに乃ノ子のところまで届いた。
乃ノ子が咳き込むと、イチは携帯灰皿を取り出し、煙草の火を消す。
イチが祓おうとしたナニカは消えたようだった。
「お前はこの山に来るのに、時間を遡ってきたんだ。
此処に近づくにつれ、町並みが変化していったはずだ」
そういえば、駅から出て、すぐのあの町、今より少し前の時代みたいだった。
そして、歩いているうちに、ガードレールが消えていた。
そんなもののなかった時代に入り込んでいたのだろう。
そこから山への道は、ただただ田んぼの広がる畦道。
確かに時代を遡っていたのかもしれない、と乃ノ子が思ったとき、イチが言ってきた。
「お前が夢で見ているのは、見知らぬ町じゃない。
それはお前の前世の記憶だ」
「一般的な行ったこともないのに何度も見る『見知らぬ町』の現象はなにが原因かわからないが。
お前に関しては、それはお前の前世だ」
「私の夢を見たわけでもないのに、何故、言い切れるんです?」
そう乃ノ子は訊いたが、
「前もそんなこと言っていたからだ」
とだけ言って答えない。
前もそんなことってどういう意味なんだろう?
と思う乃ノ子にイチは、
「……まあ、このまま戻っていってみろ。
面白いものが見られるかもしれないぞ、漆黒の乃ノ子」
と言って笑う。
だから、その呼び方やめてくださいよ、と思いながらも、仕方がないので、言われた通り戻ってみることにした。
田園の畦道を抜け、商店街に向かって、乃ノ子は戻っていった。
木造の店が多いな。
看板も右から左に向かって、店の名前が書いてある。
なんだかあべこべの世界に紛れ込んだようだと乃ノ子は思う。
時間も夕方からまた朝に変わっていった。
明るい町中を行く人々の服装が、先程見たのとはまた違う。
矢絣やがすりの着物に袴姿の女学生がいるかと思えば、乃ノ子が着ているのと、そう変わらないセーラー服姿の女学生たちもいた。
男性も書生さん風の人、マントに袴の人、ハットに今とそう変わらないスーツの人と多種多様だったが。
なんとか村のアミューズメントパークとかでないのなら、確実に、これ、明治か大正時代だな、と乃ノ子は思った。
イチが言っていた、
「言ったぞ。
確か、えーと、百年くらい前」
という言葉をなんとなく思い出す。
っていうか、今、冬っ?
半袖セーラー服姿の乃ノ子はくしゃみをする。
この時代にセーラー服でも違和感はないようだが。
季節的に半袖なところが問題アリだな、と思いながら、乃ノ子はカバンを開けた。
冷房対策用の薄手の紺のカーディガンを取り出し、歩きながら羽織る。
古い町並みを抜けると、あの駅舎があった。
夢に出てくる木造の駅舎だ。
改札の側にあの伝言板がある。
いろいろ書き込まれてはいるが、特にピンと来るものはないな、と乃ノ子が思ったとき、
「あれ?
またなにか頼まれたの?」
と笑う誰かの声がした。
振り返ると、ジュンペイが立っていた。
書生のような格好をしている。
「また兄貴になにか頼まれた?」
は? と思ったとき、乃ノ子は駅の伝言板の前に立っていた。
改札の横ではない。
トイレの近くの壁に設置してある伝言板だ。
蒸し蒸しと暑く、乃ノ子はぼんやりとしたまま、カーディガンを脱ぐ。
そして、伝言板を見たが、
『漆黒の乃ノ子。
右へ曲がって、山への道を行け』
というイチからのメッセージは消えていた。
……戻ってきた。
は、いいんだが、
「夕方ーっ!?」
と乃ノ子は帰宅ラッシュでごった返す駅で、ひとり叫んだ。
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