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見知らぬ町と迷わし神
いろいろ通り名のある奴だな
しおりを挟む「で、結局、学校サボっちゃったのよ~っ」
イチさんめーっ、と乃ノ子は叫ぶ。
「いや、それ、イチさんのせい?」
と自動販売機の横の友だちに苦笑いされながら。
「今からお母さんのフリして電話しなさいよ。
すみません。
連絡忘れてましたが、今日、娘は具合が悪くてとか」
「……今から?
超不自然じゃん。
時空さかのぼって、かけられる電話とかない?」
今かけても、朝の職員室につながるような、と訊いて、
「なに言ってんの、あんた。
私、ただの浮遊する霊よ。
そんな便利道具があったら、自分が使ってみたいわよ」
と言われてしまう。
「あ、ほら、あんたの友だち来たわよ。
紀代とかいう」
なるほど、すぐ目の前を紀代が歩いている。
だが、紀代はこちらを見ようともしない。
「紀代っ」
と乃ノ子が歩道に向かい、一歩踏み出したとき、横にいたはずの友だちは消えていた。
完全に別の空間なんだな、と思ったとき、紀代がこちらに気づいて、ああっ、と叫んだ。
「乃ノ子っ、なにやってんのよっ。
先生、心配してたわよ。
ってか、制服着てんじゃんっ。
サボり!?」
「違うよ~、大変だったんだよ~」
と言いながら、乃ノ子は振り返る。
今は見えはしないが、自動販売機の横から、あの友だちが、
ははは……、頑張れ、と笑って手を振っている気がした。
「困ったな。
此処から抜けられなくなったぞ。
あいつはすんなり出て行ったのに」
あの夕暮れの山から抜けられなくなったイチは、何度も山をぐるぐる回り、またあのお地蔵様のところに戻ってきていた。
「あやかしの仕業だろうかな ……」
とジュンペイに聞かれたら、
「いや、まずあんたが、すでにあやかしだろうよ」
と言われそうなことを呟く。
確かにもうずいぶん前から自分は人ではなくなっている気がする。
そう思うイチの足許にいきなり、なにかがすり寄ってきた。
「……すねこすり、いたのか」
白いもふもふした丸いものが、いつの間にか現れていた。
「何処へ行っていた。
まだ乃ノ子が怖いのか」
100年くらい前も、乃ノ子はすねこすりを触りたがっていたが、すねこすりは決して彼女の側には行かなかった。
「『暗黒の』乃ノ子か。
いろいろ通り名のある奴だな。
……『美しき』は、もう使えない感じだな。
最近は『愉快な』辺りがぴったりだ」
とイチはひとり笑う。
足許をウロウロするすねこすりに転がされそうになりながら獣道を歩いていたイチだったが。
気がつけば、またあのお地蔵様のところに出てしまっていた。
「あいつが連れてきたんじゃないだろうな、この迷わし神~っ!」
イチはカラスの鳴き声を聞きながら、今此処にはいない乃ノ子を罵った。
その夜、また乃ノ子は夢を見た。
あの商店街にある駅舎の夢だ。
改札近くにある伝言板を見上げていると、後ろに立っていた書生姿のジュンペイが訊いてくる。
「兄さんに、またなにか頼まれたの?」
いや、それがまだ……と苦笑いしながら乃ノ子が言いかけたとき、伝言板の枠線と文字が一瞬、歪んだ。
いつの間にか、そこにチョークで書かれた文字が現れている。
「シズ、人面犬について女学校で調べてこい」
シズって……私?
っていうか。
これが前世だとするなら、私、前世でも、こうしてイチさんに働かされていたのだろうか……。
考えてみれば、伝言板でもチャットアプリでも変わらないな。
本人はいなくて、文字で伝えてくる。
イチさんの本体、今、なにしてるんだろうな。
夢の中の見知らぬ町で伝言板を見上げながら、乃ノ子は思っていた。
「お前のせいで迷ってるんだろがーっ!」
とあの山の中でイチが叫んでいるのも知らぬまま――。
「見知らぬ町と迷わし神」完
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